[11]
さわこ
07/19 10:26
第八回妄想
私はここに来る時に考えていたことを忘れてしまっているかのようになっていました。
毅然とした態度と突き放して言い聞かせる。
その時の私はどこへ行ってしまっているのでしょうか…
背中から腰へと省吾くんのマッサージは続いています。
そこまでいくと再び手は上へ移動し始めました。
するとセーターの上から身体を摩っていた手がセーターの中に潜り込み、背中を這うように上がっていったのです。
いつの間にか明らかにマッサージのそれとは違う心地よさに私の身体が反応し始めています。触られているところから登ってくる感覚、時折触れる脇腹、それは電流のように駆け巡り、上半身も下半身の前も後ろも電流が走り続けます。そして下半身の前の部分に血液が流れ込む感覚を久しぶりに感じてしまっていて、さらに全身が敏感になっていくのを感じていました。
セーターが少しずつ捲くれあがっていくのがわかりました。白いインナーが見え始めている筈です。省吾くんの右手に翻弄され無抵抗状態だった私はセーターの中に手が入っていることに気がつきました。
「いやっ、やめてぇぇ!」
省吾くんは一瞬ビクッとして動きを止めましたが再び右手が背中を這い上がり始めました。
( だめ、背中は…そこは… )
右手が背中の真中あたりに辿り着いた時
「だめぇぇ! おねがいぃぃ」
たまらず私は叫んでしまいました。
再び制止された省吾くんはようやく諦めてくれたのか、右手をセーターから抜き取りました。
身体を反り返らせてしまっていた私は慌てて少し捲くれあがったセーターを元に戻しました。
息が上がってしまい、恥ずかしくて顔が挙げられません。
すると省吾くんは抜き取った右手を首筋に持ってきて再び揉みはじめました。服の上からではなく、肌に直接触れたのです。
「ああっっ…」
首筋を揉まれ始めると、私は再び声を上げて省吾くんのなすがままになってしまいました。
身体が敏感になってしまっています。
男性に肌を触れられているという感覚、相手は夫ではない若い男性なのに…夫とは、前はいつだったのか…それほど夫とは触れ合っていませんでした。
( 力が…声が…だめなのに手を止めないと…こんなこと… )
そして首筋に沿って上下動を何度か繰り返した後、右手の指で耳たぶを掴まれました。
「ああっ!!! そこはぁぁぁ!」
私は声を上げ一瞬にして省吾くんの方へ崩れ落ちました。
私は多分この時、、、省吾くんのマッサージ…いえ、結果的に愛撫とも思えるこの行為に年甲斐もなく軽い絶頂を迎えていたのかもしれません。前ではなく、後ろで。身体で感じてしまっていました。
「あっ、里美さん…」
私がほとんど無抵抗だったからでしょうか、省吾くんは自分の思いのままに身体に触れていましたが、崩れ落ちた私にビックリして慌てて抱き留めてくれました。
私は省吾くんに抱かれた格好のまま、目を閉じたまま大きく息をしていました。今までになく身体を密着させてしばらく動きませんでした。
省吾くんは目を閉じている私を抱き留めたまま、しばらく黙っていましたが、ややおどおどしながら声をかけました。
「里美さん…大丈夫ですか?」
私はようやく目を開けて、省吾くんを見上げながら言いました。
「ごめんなさいね、少し酔ったみたい。すごく気持ちよかったから、フラッとしてしまったの」
「いえ、僕が悪かったんです。里美さんのセーターの中に手を入れてしまったり、それに耳にまで触ってしまって。びっくりされたんですね」
「ううん、大声出してごめんね。省吾くんに下着見られたくなくて、つい声を張り上げちゃったの」
「僕に気を使わないでください。下着ぐらい…」
「だって、いつも着けてる色気のない下着だから…あっ、ごめんね、重たいでしょ?」
私は恥ずかしさのあまり余計なことまで話していました。もしそんな下着じゃなかったら私はどうしていたのでしょうか、、、
私が起き上がろうとしたので省吾くんは背中に手を回して起こそうとしてくれました。
彼の顔が数センチのところにあります。それがさらに近寄った時、省吾くんは私の唇に向かって自分の唇を近づけてきました、、、
私は下を向いていましたが省吾くんの顔が近寄ってくる気配がわかりました。
( だめ… )
心とは裏腹に私は省吾くんを避けもせずそっと目を閉じてその時を待ってしまいました。省吾くんのキスを受け入れたのです。
私たちはしばらくの間固まったように動かず、唇を重ねていました、ほんの数秒間のはずです。でも、ものすごく長く感じました。
省吾くんはゆっくり顔を離しました。私は顔を隠すように真下を向いて髪の毛で顔を隠した状態でじっとしています。
私は後悔しました。独身の男性のマンションへ一人で行き、告白を受けてしまったのにまた足を運んでしまった。今度は断らないといけない、そう思っていたのに…理由はどうあれ体を触らせてしまい、隠せないとは言え
首や耳を直接触れさせてしまった。夫とのスキンシップから遠ざかっていたとは言え夫以外の男性に…マッサージをさせて…身体を触れられてしまい、挙げ句の果てにキスまで…
明るく喜んで送り出してくれた夫に申し訳ない気持ちが溢れてきました。
キスをされそれを受け入れてしまい“女”を呼び起こされたようになった背徳感からなのか、それとも心のどこかで密かに省吾くんの次のアクションを期待していたのでしょうか。
私は下を向いたままじっとしていました。そして長い沈黙の時が流れました。
「里美さん、あのぅ、僕は…」
私は下を向いたまま静かに言いました。
「もう、帰らないと…」
「あっ、ああ、そっ、そうですよね。駅まで送ります」
コートを着ながら断りました。
「ううん、いいから。じゃあ おやすみ」
私は逃げるように省吾くんのマンションを後にしたのでした。
私は夜9時過ぎに省吾くんのマンションを出て駅までの間に電話をかけました。
夫は家に帰っていると思ってましたのでマンションを出てすぐに自宅に電話をしました。
夫は電話に出ません。
( 夫と連絡が取れない! )
駅で電車に飛び乗り電話を握りめていました。夫に何かあったのではないかと気が気ではありません。
( こんなことなら…来なければ良かった…私が来なければ… )
毅然とした態度で省吾くんからのお誘いを断り突き放していれば…今日起こったことは…キスなんてされなかったはずなのに。
夫に何かあったのか、私は心配な足取りで家路を急いでいました。
夫に何かあったら、、、私は後悔していました。省吾くんは夫とも親しくしているので許可をもらっていたとは言え、何も言わない夫の言葉に甘えて若い男性と2人きりで会っていのです。しかもその男性と…望んでのことではないにしても麻木の妻である身で麻木以外の男性とキスをしてしまって…
「まさか、、、」
“罰が当たったの?”
そんな言葉を飲み込んでいました。
急いで帰宅した私は夫からの連絡を落ち着かない気持ちで待っていました。
帰りの電車の記憶が曖昧なほどでした。
じっとしていられません。
午後11時過ぎ、、、ようやく夫から電話が入りました。
「すまない、急にクレーム処理が入って今やっと終わったところだ。部下と一緒だから遅いけど軽く食事をして帰るよ」
「そうだったの、お疲れさま。私も1時間ぐらい前に帰ったんだけど、、、連絡が取れないから心配してたのよ?
それに伯父さんと連絡取れないしまだ帰ってもいないみたいって優斗(甥)からメール来てたから、、、何か一緒に観るとか晩ご飯の約束とかしてたでしょ?心配してたわよ?」
私はできるだけ冷静に答えるようにして話しました。心配していたのは私なのに。
「連絡が取りにくい雰囲気だったからな、優斗にはメールしておくよ。お前は先に寝ててくれればいいよ、じゃあ」
私は夫と連絡が取れたことで安心しました。そしてこんな思いをするなら…もう二度とあそこには行かないようにしよう…今日あったことはもう忘れてしまおう…あれは夢だったんだと思うことにしようと。
夫は深夜、日付が変わり午前一時頃戻ってきました。
「おかえり、大変だったね」
「ああっ、散々だったよ。今の時代はいろいろうるさいよ。以前なら電話で謝ったら済んでいるのになあ…それはそうと、どうだった?省吾くんの料理は」
急な切り替えしに私は慌てました…
でも、そこで起きたことはなんて言えません。
私は努めて明るく言いました。
「えへっ、もう笑っちゃうわ。あれでよく食事をご馳走しますなんて言えたものね。結局ほとんど私が作っちゃったわ。でも自分でやろうとするだけでもいいことよね」
「そうだな、まあ本人が自分で食事に気を使うようになることはいいことだよ」
「そうね、いつまでも若くないしね」
そう…私も若くない…
「さぁ、俺は風呂に入るから先に休んでくれよ」
「うん、じゃあ先に休むわね。あとはお願いね。おやすみなさい。」
夫に今日あったこと、私が料理をした後のことを話せるはずもなく私は寝室に行きました。夫はお風呂に入っています。電話があった後、私は夫が帰る前にお風呂を済ませました。本当は急いで今日着ていたものを慌てて洗わないといけません。この冷える時期に汗をかいてしまい、そして汗をかいた理由のために汚してしまった下着。タオルに包んで置いてあります。気がかりでしたが洗濯をしにお風呂場へなぜだか行けませんでした。洗い流してしまいたくない…心のどこかでそんなことを考えていたのでしょうか…
私は後々、その日、その時に夫に求められていたら…夫に、仕事のストレス発散の為であってとしても、夫に抱かれていたらその後のことは違っていたかもしれない、そう思えてなりませんでした。
私は複雑な気持ちのまま
「今日はもう寝よう、、、また、明日から元にもどらなきゃ、、、」
私は心を落ち着かせようと他のことを考えることにしました。
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