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かおり
03/29 17:59
くまさんに褒められて、ついその気になって書き出したら、止まらなくなってしまった香織より。『花は蝶を招き 蝶は花を訪ねる』 その@
その洋館は赤城山麓の別荘地から、少し離れた森の中にひっそりと佇んで居ました。大きな青銅の門を潜ると、手入れの行き届いた中庭を潜り、車寄せに旧式なメルセデスのリムジンは停まりました。運転手が後部のドアーを開けてくれました。「お荷物は後程、お部屋の方に運んでおきますので…さ、どうぞ中の方へお入り下さいませ…」『ありがとう。』
ライオンの口に付いた大きめのドアノッカーで、ドアをノックすると、大きな音が辺りに響きわたりました。「ゴンッ、ゴンッ!」ガチャッ!とドアが開き、中から初老の品のある執事らしき人物が現れました。「熊野様でいらっしゃいますね、ようこそいらっしゃいました。さあ、どうぞ中へお入り下さいませ。」振り向くと音も無くメルセデスのリムジンは何処かへと消えて居ました。
中に入ると正面に赤い絨毯が階上まで繋がった、大きな階段が目に入って来ました。此処までかと思うくらい左右対称に配置されたオブジェやソファーが疲れた熊野を少し狼狽させた。「すぐ奥様がお見えになりますが、どうぞ其処でお待ちくださいませ。熱いコーヒーでもお出し致します。」執事が左サイドのソファーを丁寧に平手で案内して、お辞儀をした。
と、突然何処から”ホール・クロック”が鳴り始めた。「ボ〜ン!ボ〜ン!”腹に響く音だ…そう思うと熊野は昼から何も食べていないことを思い出した。話を少し戻すと、不動産関係の仕事をしている熊野の元に、“屋敷を土地ごと売却したい”と言う話が知人を通して入って来た。何でも、ご主人が亡くなられたので、“大きな屋敷に独りで住むのも寂しいので、手放して郊外にでも移り住みたい”と言う話だった。
少し不思議だったのだ…普通はご主人が無くなったら、思い出と共に其処に住み続けるのが当たり前ではないのか?とも思ったが、”売却したい”と言う人間に断る不動産やも居ますまい。海のものとも山のものとも分らない、飛び込みの話なら断っていただろうが、信頼のおける知人から紹介であったので、断る理由も見当たらなかった。ただ、ちょっと引っかかる部分が無かったか?と言うと嘘になる…
『お待たせ致しました。』コーヒーを飲みながらそんなことを思い出して居た時、背後から声がした。振り向くといつの間にか“黒いドレス”を身に纏った“婦人”が傍に立っていた。『熊野様でいらっしゃいますよね?はじめまして、私、当家の主であります“橘 かおり”と申します。この度はお忙しい中、また遠い所、ようこそお越しくださいました。』「あ、どうも…はじめまして熊野 悟郎です。いえ、こちらこそ、駅まで迎えにまで来て戴いて有難う御座います。ホント、助かりました。
妖艶でそれで居て、若いのか、それとも…もっと言うと失礼だが…それこそ女性なのか、良く分らないその虚ろで陰陽のある姿、体つきはどう見ても女性なのだが、ハスキーな声とそのギャップに熊野は暫く見入ってしまった。『あの…なにか?』「あっ、いえ、こんな山奥の館にこんな綺麗な方が独りで住んでいらっしゃるのが不釣合いかと…」『あはっ、だから貴方様をお呼びしたのです。熊野様、お上手ですこと。』
イイネ!(23) PC
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