[1167]  かおり
03/30 19:21
『妖艶の館 そのA』籠の蝶は花を恋う

 『そう言えば、お食事まだでしたよね?お腹が空かれた事でしょう。今、ご用意しておりますので。もう間もなく2階にご案内致します。今宵はお疲れでしょうから、お風呂にでも入ってゆっくり寛いで戴いて、明日の午後にでも“お話”致しましょうね。』そう言うと、婦人は踵を返し階段の方へと歩いて行った。階段を上る時、マーメイド調のドレスの真後ろに、深々と入ったスリットから、黒いガーターのレースの部分が見えた>(魅せてるのか?…まさかな、階段とハイヒールのせいか。)

 今夜は十六夜か…木幕の格子のような窓のから、針葉樹の隙間をくぐる、ぼんやりとした朧月が見えた。『お待たせ致しました。』まただ、この執事は音も無く、気が付くとそこに居る…勘弁してくれ、小心者の俺にはっちょっと堪える。まあ、ぼんやり月を眺めていたせいか、床に絨毯が敷いてあるせいもあるのだろうが。『お食事のご用意が出来ましたので、2階にご案内致します、お飲み物は何か?』(そうだな、今夜は少し疲れたから、ワインでも飲んでゆっくり休むとするか…)
 
 吹き抜けの2階の階段を上がると、通路が左右に分かれぐるりと一階を見下ろせる造りになっていた。丁度、階段の反対側に観音開きの大きなドアがあって、煌びやかなダイニングが広がって居た。天井には大きな”シャンデリア”があり、テーブルの上には金色の眩いばかりの蝋燭立てが立ち並んでいた。(おいおい、ちょっとやりすぎじゃないのか?ゴット・ファーザーかい?)「さ、どうぞ。」一番手前の椅子を引かれ、言われるがまま何だか落ち着かない内に席に座った。

 そう大きくないテーブル(と言っても一般のダイニングテーブルの悠に倍はあるか。)には白いテーブルクロスがかけられ、赤い布テーブル・ナプキンの上に食器類が置かれてあった。執事がワイングラスにドイツ系の”ピーロートの白ワイン”を注いでくれた。『どうぞ、お先に召し上がっていて下さい。主はすぐに参ると思いますので。』二人きりで食事をする?のにどうして縦の列の左右に椅子が3席づつ並んで、食器まで用意してあるのか?レストランではあるまいし。

 『いつも主人がこうしておりましたので、落ち着かない様でしたら片付けますけど?』驚いて振り向くと婦人が立っていた。(まただ、どうして此処の人間達?は音も無く近寄ってくるのか、驚かすの楽しんで居るみたいだ。悪い趣味だ、)しかし、もっと驚いたのは、婦人の衣装が変わって居たことだった。真紫色の大きく肩と胸の開いたロングのホルダー・ネックのドレスに、薄い少し淡い紫色のシースルーのカーデガン。胸元には大きなダイヤ?のネックレスが輝いていた。
 
 
 また、観入ってしまった。「いえ、大丈夫です。それにしても“高貴”なお色がお似合いになりますなぁ…ご婦人。」『遅くなって申し訳ありません。かおりで良いですわ、そのご婦人はおやめになって。」そう言うと、婦人…いや、かおりさん?は相向かいの席へと歩いていった。ストッキングまで変えて来たのか?さっきは確か黒だったが…てことは下着?いや何を考えてるんだ俺はっ!とその時、席に座る一瞬だったが、こちらの心を察したかのように、かおりは小さく頷き微笑んだ。>どういう意味だ?読心術か?ますますようわからん。

 食事が次々と運ばれて来た。前菜の春野菜と生春巻きのサラダ、子羊のクリーム何とか、若鶏のウンチャラ…フォアグラと牛肉のカンチャラとか…キャビアとズワイ蟹の…駄目だ、いくらお腹が空いたと言っても、もう食べきれん。時々、かおりと視線があったが、食事中の為か優しく微笑むだけで、会話は殆ど無かった。『熊野さんお食事、お口に合いましたでしょうか、量は足りましたか?』「あ、いや本当に美味しかったです、もう充分満足致しました。ご馳走様でした」>ゲップでも出そうだ。

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