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カオリン
04/05 16:40
『花は蝶を招き 蝶は花を尋ねる』ANOTHER SIGHT STORY
その方が私の家を訪れたのは、ちょうど夕方5時になろうした処でした。昨日の夕方に連絡があり、本来なら飛行機でもう少し早く到着する予定が、体調があまり宜しくないせいか気圧の関係で、新幹線で参られるので、到着が夕方頃になってしまう、と言う事でした。初めて熊野様のお声を聞いた時に何か懐かしいような、それでいて優しそうなその御声に、私は少し心が騒いだような気がしたのでした。そして今日初めてそのお姿を拝見した時にも、数年前に亡くなった“主人”と何処か重なる部分があり、真っ直ぐにこちらの目を見てお話をする姿勢と、その安らかで柔らかな表情に、私は主人が亡くなって以来初めて他人に“心”を動かされました。私は1階で簡単な挨拶をすると、2階に上がり厨房で料理の指示を出しました。
一旦部屋に戻り、お手伝いの“咲と美亜”に部屋に来るように申し伝えました。「コンコンッ!失礼致します…ニ人が部屋に入って来ました。「かおりさま。何か御用でございましょうか?」『お客様の熊野様が先ほど御到着されました。長旅で相当お疲れのご様子です。お部屋の用意とお飲み物、それとお風呂の用意をして置く様に。』『それから解かっては居るとは思うけれど、“大切なゲスト”ですので、くれぐれも粗相のないように…』『ニ人共用意が出来次第、御一緒にお風呂に入りなさい。そして熊野様のマッサージと全身をくまなく綺麗にして差し上げるのです。わかりましたね?』「それからニ人は顔を見合わせ「はい、かしこまりました。」と両手を腰の前で重ね合わせると、丁寧に頭を下げ「それでは失礼致します。」と部屋を出て行きました。
お手伝いの“咲と美亜”は小さい頃に孤児として知人より預かったものでした。2人ともご両親を幼少時に亡くし、親戚の家を転々としておりましたが、“いじめや家庭内の暴力”などで、知合いの孤児院に預けられていました。中学を卒業して孤児院を出る頃に丁度知人から話がありました。それ以来、此処で働いてもらっています。素直でとてもよく働いていることに感謝しています。ただ、まだ“世間知らず”なので、教育が必要でした。2人とも高校に行くという選択肢も合ったにも関わらず、好きでずっとここで生活しています。『お前達が出て行きたければ、いつ出て行っても良いのですよ。もう、あなた達は自由な身なんですから。』私は事あるごとにそう二人に伝えて参りましたが「いえ、私達はかおり様のお傍が良いです。」と、言って聞きませんでした。
二人が部屋を出て行くと私はクローゼットで、洋服を選びました。大きく胸の開いたホルダーネック、紫色のマーメイドドレスでした。…『この服に黒い下着は似合わないわ、透けてしまうわ。』私は黒いドレスを脱ぎ捨てると、下着を履き替えました。「リーン、リーン…♪」旧式の電話のベルが鳴り、執事の”吉野”からでした。「熊野様がダイニングにお見えです。」『わかりました。すぐ、そちらに向かうとお伝え願います。』「かしこまりました。」吉野は主人が連れて来た者でした。良く働き、私の我侭に文句も言わずよく付いて来てくれていると思います。以前は何でも、有名なレストランで支配人まで登り詰めたことがある人物らしいですが、経営者の相続の“御家騒動”に巻き込まれ、突然“解雇”されてしまったらしいです。…あらぬ話でもされたのでしょう…下から成り上った”出来る人間”ほど逆恨みされるとは世の常でしょうから。
2階の“ダイニング”に降りると、熊野はすでにワインを傾けて居ました。私が『お待たせして、申し訳御座いません。』と挨拶すると、熊野は少々驚いた表情で振り返りました。後ろから声を掛けることが失礼なことと重々知ってはおりましたが、何故か少し“悪戯”してみたくなったのは、私の悪い癖でした。「いえ、大丈夫です。」不思議な熊野の視線を身体に感じました。どうやら私のドレスに驚いている様子でした。その時、視線をわざと外して周りを見回す可愛い様子を見せたので、私は”時計”を探していることに摩り替えた事がすぐ気が付きました。食事中も熊野の熱い視線も感じて居ましたが、敢えてあまり会話はしない様にしていました。“食事を純粋に楽しむ”と言う程のことでもないのですが、疲れている時に“二つの行動”をとる事は人間の脳に負担を掛け、余計に疲れることを知って居たからでした。
それと、“後でゆっくり話す機会は幾らでもあるだろう”と存じて居たからでした。
イイネ!(3) PC
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