[1189]  くまさん🐻
04/06 18:41
くまさんのお友達

後編「くまさんの悪い友達」

 くまさんが枯れ木の上に座り込んで悩んでいると、
そこへ南風さんが通りすがりにヒューっと口笛を吹きながら声をかけてきました。

 「くまさん、そんなところでなにをしているんだい」

 「あ、こんにちは南風さん、僕は香織ちゃんにパンのお礼をしたいんだけどあげるものもなくて困ってるんです」

くまさんが詳しい事情を説明すると

 「ふ〜ん、そうかい、そんな可愛いお嬢さんへのお礼ならわしの友達に頼めばいいさ、みんなからは嫌われてるけどな」

南風さんはそういうとあっはっはと大きな声で笑い出したのです、すると山の木々も合わせるように枝の手を振り、ざわざわとはしゃぎだしました。
きょとんとしているくまさんに、

 「くまさん、わしの"悪い友達”を紹介しよう、ほら、あそこに顔をだしてる」

言われた方を見ると、彼方の地平線が灰色に染まり、低く垂れ込めた雲が顔をのぞかせました。

 「南風さんの悪い友達って、あの灰色の雲さんのことですか」

 「ああそうだ、みんなが天気が悪い悪いっていうあの灰色の雲のことさ、でもほんとはいい奴なんだ」

そう話してる間にも灰色の雲はだんだんと近づいて、とうとう青い空の半分をおおってお日様を隠してしまいました。

 「雲が雨を降らせないと草が育たないし、飲み水もなくなってみんなが困るだろ、畑に田んぼに雨が降れば香織ちゃんたちが食べる小麦や米もすぐできるさ、
  香織ちゃんだけじゃなくみんなが喜ぶから、こんないいお礼はないと思うぞ」

 「そうか、みんなが喜んでくれるんだね」

 「そうさ、それじゃわしが雲に言ってくるから、くまさんは濡れないうちに帰りなさい、雨があがったら竹の林に行ってごらん、
  竹の子が食べきれないほど待ってるさ、それじゃまたな、くまさん」

 「ありがとう南風さん、そして雲さん」

くまさんの言葉も風に乗せて、南風さんは一段と大きくヒューっと口笛を吹くと、山の木々もざわざわと騒ぎだし、
入れ替わるようにしてやってきた黒い雲に拍手を送ったかのようでした。

濡れないうちにとくまさんが住処の家に急ぎ帰りつくと、それを確かめたかのように大きな雨粒がぽたりぽたりと落ちてきました。
やがて空から白線を何本も引いたかのような春の雨がしずかに、そして優しく大地を潤し始めたのです。

山の森に野原に、そして畑に田んぼに雨が降ると、野菜がヒラヒラと手を振り、川で魚が飛びはね、やがて田んぼでは田植えが始まりました。

そんな雨の光景を眺めていたくまさんに、笹の葉と水滴がワルツを奏でてくれました。

ゆらゆらと揺れる笹の葉と雨音で眠くなったくまさんは、同じ音楽が香織ちゃんのところにも届いてるといいなとおもい、
そして雨があがったら今度は竹の子を香織ちゃんにプレゼントしようと決めると、いつのまにかまぶたも閉じてスヤスヤと寝息をたて始めていました。

笑顔で寝ているくまさんの夢の中では、香織ちゃんと手を繋いで春の野山をスキップしているのかもしれません。






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