[12]  さわこ
07/29 01:09
第九回妄想

いつのまにか眠っていました。

いつものように朝の支度をして夫を起こし朝食を一緒に取ります。
昨夜のことは忘れていました、ほんの束の間だけ。

私はパートに行く準備をし始めます。

いつもは9時が始業時間なので夫を送り出したらすぐに出勤します。普段は駅まで自転車ですが雨の日は車で出勤します。最近の夏の暑さで夏になると駅まで車で行かないとね、、、と考えています。

今日は午前中、半休を取っていましたので午後からの出勤です。
なぜ半休を取っていたのか…理由は…わかりませんでした。ただ、始めからそれが良いような気がしていたのでした。何かの予感めいたものがあったのでしょうか。

携帯電話が鳴りました。

ドキッとしました。
大きく息を吸って電話を取ります。

「省吾くん、おはよう😃 早いのね。」

出来るだけ明るく言いました。

「おはようございます。里美さん。ええ、仕事ですから。今お店に来ました。昨日は…その…お食事ありがとうございました。 あの…」

私は言葉を遮って話します。

「昨日はお邪魔しちゃって。ありがとね。料理上手く作れたね。これから自分でしなきゃだめだよ?私も出来ることとできないことがあるからね?いい?」

できることとできないこと、この言葉でわかってほしい、そんな気持ち言いましたが彼と話をしているとなんとも言えない甘酸っぱい気持ちが込み上げてきます。

また、息を吸って一気に言いました。

「はい、これからもまた教えてください。
あの…その…もう、あんなことは二度と」

「……案外、手が早いのね…次は罰金だからね?わかった?(笑)」

台無しです。

「は…はいっ!はいっ!わかりましたっ!で、でも、罰金で済むなら 僕 いくらでも払いますよ」

「言ったわね? 高いんだからね、私の罰金は(笑)」

「大丈夫です!僕はちゃんと払いますから。」

「お願いね(笑)」

私は電話を切って浮かれている自分に、ハッとして…そしてその瞬間、夫の顔が頭に浮かびます。

( 私…何言ってるの…なんで、あんなこと… )

そう思いながら

( 夫とキスを最後にしたのはいつだったかな… )

省吾くんのキスは若さや飢えから来る激しく求めるようなキスではなく、いたわりながらも堪え切れない“想い”と“憶い”の籠もった優しくておずおずとしたようなキスでした。
“獲物”を求めていたわけではなく“愛しいものを愛しむ気持ち”が溢れてしまい押されられない気持ちが込められていたように感じたのです。

( 震えていた… )

そんな気持ちが汲み取れてしまった私は逆らわなかった。
“可愛い”とさえ思ってしまった…
そして“女”を思い出し、“妻”を忘れてしまった…今も話しながら…

私はおもむろに電話の自宅の受話器を取り、パート先に電話をします。

「おはようございます、麻木です、はい、高橋主任はいますか? はい、お願いします。」
「主任、お疲れ様です。お忙しいところすみません、今日は午前中半休いただいていて…はい、なにか体調が思わしくなくて…はい、…お休みをいただけませんか? はい、明日は必ず、はい、はい、すみません。勝手を申しまして。はい、よろしくお願いします。」

私は電話を切るとすぐ浴室の脱衣所に行きました。
昨夜慌ただしくて出来なかった洗濯物の中にタオルにくるんだまま入れておいた昨日の下着、ブラジャーとショーツ、インナー、黒いタイツとガードルをタオルに包んだまま手に取り洗濯機から出し自分の寝室に戻りました。


昨日の私は自覚していました、“女の蜜の湿り”を。
マンションを出て駅へ向かう途中も、帰りの電車の中でも。

いいえ、昨夜の省吾くんのマッサージ…まるで愛撫のような“それ”に私は年甲斐もなく、甘い絶頂感を得ていました。そうです。若い男性に触れられ、感じてしまい“前”ではなく“後ろ”で…

“だめ、考えちゃだめ。そうしないと…”

そうしないと…なんなのでしょうか。

“会えなくなってしまう”

誰と?

“違う、夫の元に帰らないといけないの…”

“夫の、麻木の顔が見られなくなっちゃう…”

そのまま夫の胸に飛び込めばよかった…
夫に抱きしめて貰っていれば毅然とした態度が取れたはずなのに…毅然と彼をたしなめられたのに…
我を忘れて夫に抱きついてしまえば良かった。理由は何とでも言えた。連絡取れなくて心配で仕方なかったのって。

“なんで家に居なかったの…”

夫との夫婦性活の少なさが私を夫の胸に飛び込ませなかったのでした。

その時私は後悔でいっぱいでした。そして恐れていました、眠っていた“女”が目覚めることを。

前の訪問の時も気付かなかったフリをしたのに…昨日はそれでは済まないと思えるくらいに…“はしたない”ことになっていました。歩いていても感触は伝わります、電車の中でも。

後悔の念と連絡が取れない夫が心配で、そして身体が示した私の肉欲を恐れる気持ちがないまぜになりなんとも言えない気持ちで家路に…

家に着いても連絡が取れない夫。
このまま夫が帰って来なかったら…
事故に遭ってしまったのか…
私はバチが当たったんだわ…そう考え始めた頃夫からの連絡。
安心した私は家の片付けを始めようとした時に思い出しました。
寝室に慌てて入った私は現実を突きつけられました。下着に広がった蜜とその染み、私の“肉芽“からまだその時も“秘蜜の滴り”が溢れ出し糸を引いていました。ガードルにまで染み出していたそれを見た昨日の私はしばらくベッドに座り込んでしまっていたのでした。夫を迎える準備も忘れて。

パート先への電話を切り洗濯機から出した昨日の衣類を持った私は寝室で着ていた衣類を全て脱ぎ、持ってきたタオルの包みを開け、昨日のブラとショーツ、タイツ、ガードルに着替え、そして、掛けてあったセーターとジーンズ。これらに着替えました。昨日と全く同じ服装、昨日と全く同じものを身につけました。
私はベッドにしゃがみ込み自分を抱きしめました。ほのかにする料理の匂いと自分の香水の匂い、そして省吾くんの部屋の匂いがしました。

( 今だけ、この一回きり…想像するだけで満足するから… )

身体の火照りを鎮めないと…

昨日のことをベッドの上で思い起こします…目を瞑り、そして手を…

 《 ↓↓↓㊙️🔞🔞🔞🔞🔞㊙️↓↓↓ 》

 《 ↑↑↑㊙️🔞🔞🔞🔞🔞㊙️↑↑↑ 》

………………

私はベッドの上で放心状態から落ち着きを取り戻すと下着を付け直し、セーターを脱いでハンガーに掛けて室内で元あったように陰干しします。
私はトップスに着ている昨日の長袖インナーTシャツとジーンズのまま、朝からの衣類を持ってお風呂に向かいました。
お風呂では今しがたの痕跡を消すために汚してしまったショーツとガードル、タイツを下洗いし、体を洗いお風呂を出ました。

昨日からの洗濯を終えた後、私はしばらくソファーでまどろんでいました。現実に戻るために。
もうこんなことはしない…そう、あんなことはなかったのよ…彼はほんとうの私のことは知らないんだから…“普通の女の身体”じゃないんだから…知られないまま…このままできれいに…と。

ウトウトしていた…そう思っていました。

( 何時だろう、、、そういえばお昼、食べてないわ、、、 )

そんなに時間が経ったように思われなかったのです。

( そか、、、3時40分か、、、 )

「3時40分?! ってダメじゃん!」

洗濯を終えてからかなり経っています。
私は慌てて洗濯物を取り込みお化粧を整えて夕食のお買い物に走りました。

昨夜からの“緊張”と先程の“行為”でドッと疲れが出てしまったのか…よく眠れていなかったのかもしれません。

( 生活のリズムを変えちゃだめ…そうしないと… )

直感的にそう思いました。 
さっき一回だけ…妄想だけで…そう思っていたのに…

心を静めるように車に乗りスーパーへ、夫の好きなものを頭に思い浮かべながらお買い物をします。

( 省吾くんの料理ばっかり気を配っちゃだめよ… )

後ろめたい気持ちに駆られててしまいます。

( 私は麻木の…あの人の“妻”なんだから… )

車をガレージに慌てて入れます。買い物に時間がかかってしまいました。

( いつもより少し斜めだわ…たまにはそんなこともあるわよ… )

誰に言ったのでしょう。

「ただいま〜」

食事の用意も済んだ頃夫が帰りました。
夫は7時過ぎに帰宅して、食事私たちはいつもの生活のリズムを崩すことなく過ごしていました。

片付けを済ませるとお風呂を終えた夫はリビングでテレビを観ています。
私もお風呂を済ませて出てくるとまだリビングに居ます。
仕事カバンが脇に置いてあります。
真面目な夫はこうして時々家で仕事を片付けています。

“冷静になって考えられるからミスが減らせるんだ”

こんな真面目な夫でした。
胸が痛みます。

「今夜は先に寝るね。大丈夫?」

私は昨日遅かったこととその日の疲れもあり先に寝ることにしました。

「ああ、いいよ、先に寝てくれ。俺はもう少し起きて確認するものがあるからここで確認しておくよ。おやすみ。」

11時を過ぎていました。

私はベッドに入り出来るだけ何も考えないようにしました。全てを忘れようと思いながら…

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