[1226]  くまさん🐻
04/18 01:30
香織ちゃんとくまさんの物語

「さびしんぼうの香織ちゃんの大冒険」

 ある日、香織ちゃんはパパさんやママさんたちと雨にも関わらず久しぶりのドライブ旅行に出かけました。
そんな温泉旅行から帰ってきた香織ちゃんは、雨で幻想的だった景色とか、美味しかった料理とか、大好きなくまさんにいろいろ話したくて仕方がありませんでした。

その翌日、家族に内緒でくまさんに会いにいくことにした香織ちゃんは、くまさんと一緒に食べようとサンドイッチを二つバスケットに入れ、
オレンジジュースをボトルに詰めると、窓からこっそりと抜け出て森へと向かったのです。

でも、香織ちゃんはくまさんの家を知りません、森まで来たのはいいのですが中に入ると薄暗くどこまでも木々が続くばかりに見えました。
それでもくまさんに会いたい香織ちゃんは、あっちにこっちにと森の中を歩き回ったのです。

やがて少しばかり空が開けた平地に出ると、そこには小さな池があり、回りにはいろいろな花も咲いていました。
その中には香織ちゃんの好きなチューリップもたくさん咲いて、薄暗い森とは対照的に天国のように思えました。

すると急にお腹が空いていたのを思いだし、ここで休憩することにした香織ちゃんは、袋に書いていた名前のくまさんの分を残して、
自分の名前を書いたサンドイッチを食べることにしました。

食べ終わってジュースを飲んだ香織ちゃんは、気分も落ち着いたのですが、森の中をさんざん歩き回ったせいで少し疲れていました、
前日までの雨で湿った土がお気に入りの靴を汚し、くまさんとサンドイッチを食べることもできなくて悲しい気持ちにいじけそうでしたが、
岩の上に腰かけていると小鳥たちの鳴き声が案外と響いているのに気づきました。
チュンチュン ピーピー ブーンと蜂の羽音まで耳に入ってきます、
そのまま寝転がって空を仰ぐとどこまでも真っ青な中にたくさんの鳥達があっちに行ったりこっちに来たりと大空に輪を描いて飛び交っていたのです。
そして時折、木々の梢を風がゆらし、青葉の揺れる影と合わせるように香織ちゃんの美しい長い髪をもなびかせました。

そんな春の風景を仰ぎ見ていた香織ちゃんの体が、いつしか藍色の服に包まれふわりと浮かび上がると
風に乗ったかのように空を舞い、鳥達と一緒に日差しの中に輪を描き楽しみ始めたではありませんか。
森の上だけではなく、川を越え、山裾をかすめるとやがて街並みの屋根を眺め下ろし髪をなびかせつつ、
雲の上までも走り、虹のような大きな輪を描きました。

と思うまもなく回りが暗くなり、今度は夜の闇に入り込みました。
今は一人ではありません、フワフワで温かい大きな背中に乗った香織ちゃんは帽子にゴーグルをつけたパイロットでした。
お月様の横をすり抜け銀河の中に飛び込むと煌めく星たちがはやし立てるように手を鳴らします。

温かい背中はくまさんだ、香織ちゃんはそう思うとしっかりと背中にしがみつき、
頬をつけて温かみの中に入り込むかのようにして夜空の見渡す限りの星の群れに心躍り、そして安らいだのです。

まぶしい朝の輝きと小鳥のさえずりに目を覚ました香織ちゃんは、体を起こすとキョロキョロと回りを見渡し
自分のベッドに寝ていることに気づくと、夢の中の出来事だったのかと思いました。

残念な気持ちと寂しい気持ちが起こり始めたその時、窓の下に泥だらけになった香織ちゃんのお気に入りのズックが置いてあるのに気がつきました。
さらにその横にはサンドイッチを入れたはずのバスケットも置いてありました。

 「夢じゃなかったよね、確かに森に出かけたんだもん」

独りごちながらバスケットを取ろうとしたら意外と重いのに驚いた香織ちゃんは、怪しみながらフタをそっと開けるとなんということでしょう。
そこにはどんぐりがいっぱい詰められ、上にはチューリップの赤や黄色の花が乗せてありました。
さらに花の上にはメモがあり、読んでみると

 「サンドイッチをありがとう、おいしかったよ、ごちそうさま」

あまりきれいじゃない文字が書いてあったのです。それでも香織ちゃんはうれしくなりました。
夢の出来事だと思ったのは夢ではなく、あの背中はほんとにくまさんの背中だったんだと思うと、
泥だらけのズックもバスケットのどんぐりもチューリップもすべてが素敵な祝福に思えて、まるで朝の小鳥のさえずりのように
香織ちゃんの部屋からはいつまでも"ある歌"が軽やかに聞こえ続けていました。



イイネ!(1) PC ZefMWATJ
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