[1238]  かおり
04/24 15:25
        “くまさんとかおりちゃんのものがたり”その2

 それは”春の嵐”とでも言う以上のものでした。凄まじい風が大きな黒い雲を引き連れて”ゴーッ!!”と言う音と共に山の彼方からやって来ました。大きなうねりとなった”雨と風”に木々は凪倒され、川は大蛇のような濁流となって流れて居ました。山や草原、草花がまるで海に飲み込まれたような光景でした。

 『ねぇ、ねぇ、おかあさんすんごい雨だょ〜!』「かおり、危ないから窓から離れてなさいね。」『はぁ〜い、な〜んだ、つまんないなぁ…』でも、かおりちゃん家も例外ではありませんでした。麓に近く、すぐそばに先程の川が流れて居ました。『おかあさん、おとうさんは?』「お父さんは窓や扉に打ち付ける、木や釘を地下室に取りに行ってるよ。」

 そのころ、くまさんはかおりちゃん家に程近い川のほとりに居ました。(まずいなぁ、これじゃあ。かおりちゃん家が危ないかも知れない。)そう思ったくまさんは大きな岩を転がして川の中に入って行きました。しかし、いくらカラダの大きなくまさんでも、この嵐で濁流となった川の中で、岩を転がすのは容易ではありませんでした。

「そお〜ら、どっこらしょ!わっしょい!」くまさんは流れに足を取られそうになりながらも、一生懸命、大きな岩を背中で押しながら、流れを変えようとしていました。その時「助けて〜、誰かぁ〜!」小さな子犬が上流から流されて来ました。くまさんは一旦、岩を押すのを止めて、その子犬を救い上げました。「大丈夫か>ぼうず?」「ゴホッ、ゲヘッ!…うん、ありがとう!」

 くまさんはその子犬を木陰にオブって行くと、「ここなら、暫く大丈夫だ!少し休んでなさい。」そう言うとくまさんはまた濁流の中へと戻って行きました。「おじさんは、何してるの?」「あぁ、このすぐ下に住んでる子の家が危ないから、流れを変えてるのさ。」そう言うとくまさんは、また岩を動かし続けました。どのくらい時間がたったでしょうか。もう、くまさんの体力は限界でした。

 長時間川の中に居たせいで、体中は冷え切り、手足の感覚が無くなって居ました(もう、あかんな、こりゃ…)くまさんは足を滑らせそうになり、冷たい川の中にドボンと落ちてしまい、流されそうになりました。と、その時大きな口を開けたオオカミが4匹、川の中に飛び込んで来ました。(なんだ、おれもとうとう、年貢の納め時か?)くまさんにはもう戦う気力も体力も残って居ませんでした。

 しかし、その4匹のオオカミは襲い掛かったのではなく、それぞれがくまさんの四肢を分担して噛むと、大きなくまさんのカラダを濁流から引き上げました。「どっこらせっ!ホント重いな、あんたっ!」くまさんがやっとの思いで薄目を開けると、この前、かおりちゃんを襲ったオオカミでした。「今日は、ウチのぼうずが世話になったな、これで貸し借りなしだぜっ!…行くぜ、野郎共!悪いがこの嵐で、まだやることが沢山あるんでな。」

 くまさんのおかげで、川の流れが変わり、かおりちゃん家も無事で済みました。でも、かおりちゃんがそんなことは知る由もありませんでした。嵐が過ぎ去った後、嘘のようにキレイなお月様が空に昇っていました。「くまさん、どうしてるかなぁ?嵐、大丈夫だったかなぁ…お月様、くまさんがどうぞ無事でありますように…」流れ星が一つ、星空の彼方へと流れて行きました。

イイネ!(1) PC
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