[13]
さわこ
09/13 11:21
第十回妄想
3月も中旬を過ぎると年度末です。夫は年度末から年度始にかけて毎年極めて多忙です。
帰宅が深夜になることも多く、家には寝るためだけに帰るようなものでした。私は夫の体調が悪くならないように気を使います。
その間、年度末のために省吾くんも忙しいのでしょう。メールはなく、夫と省吾くんの話をすることもなくなり、パートも順調に出勤して日常に戻りつつありました。少しほっとしている私がいます。
年度末が終わる頃になっても相変わらず省吾くんから連絡はありません。
仕事に没頭している…そう思っていましたし、実際その通りだったようです。
このまま忘れて欲しい…そう考えつつ、それでいいの?と誰かが私に問いかけます。このまま"女"としてもう一度花を咲かせることもなく(このまま“女”を思い出さずに)消えていくのかしら…そう思うと切なくなっている自分がいました。
そんな風に気持ちが変わってきていることに気づかずにいるなんて。麻木の妻なのに。
4月も中旬ごろとなり、夫の仕事の方もようやく落ち着き、日常に戻りつつ少し落ち着いてきた頃でした。
突然、省吾くんが夫に連絡が来ました。
「麻木さんと里美さんをお食事にご招待したいと思うんですけど…」
「ご招待って…省吾くんがご馳走してくれるのかい?」
「ええ、お任せください!」
夫と省吾くんの話では、昨年度営業の成績がすごくよかったので、店長からペアのお食事券をプレゼントされたらしく、私たち夫婦を招待したいとのことで上のようなメールのやりとりになったそうです。
夫はせっかくだから君も僕たち夫婦と一緒に行かないか?君の差額分は僕が払うよ、と誘ったそうです。結局、省吾くんは御礼なのですからそれでは困ります、じゃあそれは自腹にしますから、と自分で払うと言っていたそうです。
( 料理の御礼にって…私だけ誘ってくれたら良いのに…でも、一緒に行くなら堂々と話もできるわね… )
こんなことを考えてしまっているなんて…
「行かないか? どうする? 良いとこらしいぞ。」
物思いに耽っていた私に夫は改めて聞きました。
「う…うん行くよ。楽しみだわ。即オッケーしたって省吾くんに言っといて。」
慌てて答えます。
そして食事は三人で食事に行くことになりました。
当日まで何を着ていこうか悩みました。
場所は知る人ぞ知る有名な料亭。
私もいつものジーンズというわけにはいきません。だからといって派手過ぎてもいけないし地味過ぎても…
( やっぱりおばさんだったって思われたら嫌だし、だからって気合い入れ過ぎてもなぁ。 )
結局その日はスーツを着て出かけました。
( 良いんじゃない? 良いよね。 少しくらい短い方が。 少しくらい反応あるかな? それにしてもずっと連絡くれないんだから… )
あれからやや太ったのでしょうか、腰まわりがやや窮屈でした。
この歳になるとガードルやボディースーツのような補正下着は必須です。
私は黒のストッキングを履き、濃紺で胸からお腹に向かって白の刺繍の入った補正下着、ボデースーツを着ます。
その日は高級なお店なのできちんとした服装で行かなければマナー違反です。当然スーツを着て行きますから必然的にインナーはこのような形になります。特に“私のような身体の女性”には。
5年ぐらい前に長男の卒業式用に新調した春物のスーツです。その後は一、二度しか着ていなかったと思います。普段通勤などで着ているスカートと比べても私にしてはかなり短め、冒険する気持ちで買ったスカートの丈でした。膝上5pに合わせて買ったものでしたが少し太ってしまったせいでその分、少し丈が短くなっしまっていたようです。丈が膝上5pより若干短くなってるくらいにしかと思っていませんでした。
( 下着のラインが出ていなければ良いけど…大丈夫だよね? 出てたって夫はどうせ気にしないから…でも…彼は気にしてくれるかな…他の人に見られたらどうするんですかって言ってくれるかな… )
昔、初めて“里美”として夫とデートした頃の気持ちを思い出しました。
夫と一緒に省吾くんに会うと言うのに私の頭の大半は省吾くんのことで占められています。
浮かれていたのでしょう。
そこは落ち着いた雰囲気の料亭で出された創作料理は、今まで味わったことのないぐらいの豪華料理で夫も私も大満足!
私はお料理のレシピをあれこれと想像しながら食べます。
( 料理の腕も磨かなきゃ…え?…誰の…ために? )
「ご馳走様、省吾くん。とっても美味しかったわよ? こんなんだったらまたきてもいいなぁ、ねぇ、あなた(笑)」
「そうだな、今度は俺がご馳走するよ。また来よう。」
夫が続けて言います。
「そうだ、里美、こんな高価なものを若い省吾君に一方的にご馳走になったままでは申し訳ない。営業で何度か利用したお店があるんだ行かないか?まだ時間は大丈夫だろ?」
「え? はい、大丈夫ですけど、、、お二人とも明日の仕事は大丈夫ですか?」
「私は大丈夫だ。 里美も大丈夫だろ? 省吾君、たまにはいいじゃないか?
な、里美?」
「うん、私は大丈夫。主人は滅多にこんなこと言わないんだから行こ? 省吾くん。」
私たちは料亭を出た後、夫が仕事で利用したことのあるスナックバーに行きました。
タクシーでは後ろ座席の奥に夫、隣に私、省吾くんは前の助手席に座りました。
3人ともお酒も手伝っておしゃべりが続きます。
お店に着くと、カウンターで私を間に挟んで、私の左に省吾くん、そして右側に夫が座りました。
料亭から少々アルコールも入っていましたので、スナックバーでは三人ともややテンションが高くなっていました。
「省吾君、うちの家内のことどう思う?」
夫は酔った勢いだったのでしょうか、省吾くんに聞きました。
私は驚いて固まってしまいました。
( 顔に出ないで… )
そして
( 私たちのこと知ってるの? まさか?! )
省吾くんは私の心配を余所にとんでもなく、そして聞き捨てならないことを言いました。
「う〜ん、素敵な方ですよね。お母さんみたいに包んでくれそうな感じで」
私もさっきの心配は何処かに投げ捨ててしまい
「ええっ!お母さんですって!お姉さんでしょ もーっ、失礼ね(笑)」
「あっ、すみません、訂正します。お姉さんでした(笑)」
「今更遅〜い!もう料理作ってあげないっ!(\\\٩(๑`^´๑)۶////)」
こんな話しが続き、和気あいあいのうちに、あっという間に時間がたっていきました。
しばらくして、夫の右側に夫の顔見知りらしいアルバイトの女性が座りました。
私は気になりましたが彼女は私より年令は上のようでしたので、まあいいやと放っておきました。
( 鼻の下伸ばしてたらお仕置きしてやるんだから )
そう思って夫から目を戻した時、省吾くんがその女性に視線を向けたのを私は見逃しません。
省吾くんの脇腹をキュッとツネってほっぺたを膨らませました。
困ったような顔した健太くんが可笑しくて吹き出してしまい私の意地悪は失敗してしまいます。
でもそんなことより私は省吾くんと久しぶりにお話しができたので嬉しくなっていました。
夫はその女性と話しこんでしまっています。
私はその女性に嫉妬するどころかいつの間にか省吾くんに寄り添うように座り楽しく話していました。
時々は肩に肩を寄せたり、左手で彼の脚に触れたり、一度だけ、彼に腕を絡ませたりしました。ほんとに楽しい時間を過ごせました。
明日の仕事が気になり出す前に名残を惜しみながら夫と私はタクシーで帰宅しました。
帰宅した後、普段より少し短目のスカート履いていたので、夫は私に
「脚を組んで座ってたからスカートは太股の上から半分ぐらいが見えるくらいに上がっていたぞ。いや、もっとだったような気もするよ。」
「え? そんなに? ほんと? やだぁ!」
「あはは、そんな短いの履くからだよ。」
これはほんとに恥ずかしくて顔が赤くなるのがわかるくらいでした。
「お前にしてはかなり短いなって思ってたんだよ。膝上…そうだな10p以上は短かったよ。」
“まさか!?”でした。
「だって…あんな良いお店だからちゃんとしなきゃって…」
「だからってそんなに短かったらそうなるだろ?結構奥まで見えそうだったぞ。」
「ええっ? そんなに? だって、膝上…5pくらいの丈だったのに…」
「え?! そうなのか? それよりもっと短かったぞ? 良いお店だからって張り切ってるなって思ってたんだ。」
私は膝上5pより少し上くらいの丈だと思っていましたがそれどころじゃ無かったみたいで、太ってしまった分余計に上に上がっていたようです。
「ああ、ほんとだよ。省吾くんにも太股の上の方、下着まで見えそうだったぞ?ひょっとしたら見えていたんじゃないか?」
「うそっ! もぉぉぉ、なんで言ってくれなかったのよぉ!」
「いや、わざとだと思ってたよ(笑)」
当たらずとも遠からず…そこまで見えているとは思わなかったにしろスカートの長さは…省吾くんに当て付けるためでもありました。そして2人で話し込んでいる時の、態度といい、とても麻木の妻という立場の私がする態度ではありません…
そして、その時の私は省吾くんに本当のことを話そうか悩んでいました。
( 省吾くん、私は本当はね…私はね…私の身体は… )
楽しく話をしながらも何度も喉から出掛かりました。でも言えなかった。
話そうとする度に私が表情を変えるので何度も省吾くんは私の顔を覗き込むようにみます。
ここは夫の仕事のための場所でもあることもありましたが、省吾くんの楽しげに話す顔を見ていると今の関係を壊したくない、このままもっと話していたい、そんなことが頭から離れず、とうとう言い出せないままでした。
そして、夫からゴールデンウィーク中に省吾くんを我が家に招待しようと提案があり、招待することになったのです。
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