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くまさん🐻
01/04 23:10
(ひまつぶしの為のぐだぐだショートストーリー)
「アロンアゲイン」 全5回(予定)
A
窓の方を見ている香織の美しい横顔は、ブラウンの長い髪に隠されてその表情を伺いしることはできない。
古ぼけた小さな喫茶店のマスターにとって、ゴージャスな雰囲気を醸し出し、会社でも幾人もの男たちに誘われるという香織は、いわば高嶺の花だった。
「マスター、あたしの話をスルーしたわね、やさしくないな、分かってるくせに」
窓の方を向いたままほおづえもそのままに香織がつぶやいた。
「え? まさかあの素敵な幼なじみの人と別れたってこと?」
顔をこちらに向けると、ちょっと力を込めて香織は言った。
「さっきから言ってるでしょ、マスター、音楽をお願い、アロンアゲインね」
そういうと今度はカウンター席をクルリと回転させてドアの方を向くと、じっと動かなかった。
普段は40年代50年代のオールドジャズを専門にレコードで流している。
それでもポピュラー音楽の類もある程度は揃えていた。
壁いっぱいに並べてある古いレコードの列から、慣れた手つきで一枚を引き抜いた。
ギルバート・オサリバンのLPだ、30年もののプレーヤーに載せて静かに針を落とす。
あの独特のスローなリズムが流れ出すと、今の香織の気持ちを代弁しているのかと思うと、何か言わねばと少々焦った。
しかし、先に口を開いたのは香織の方だった。
「マスターはあたしが好きだと思ってた、だから一人になったってせっかく教えてあげてるのに・・・・・ばか」
ドアの方を向いたまま、魅惑的な長い髪を見せていつもより少し低い声だった。
その声はかすれていたかもしれない。
お互いが沈黙し、音楽だけが店内に流れていた。
🎵Alone again,naturally🎵
Bに続く
イイネ!(23) PC ZefMWATJ
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