[749]  くまさん🐻
01/08 02:51
(ほんとにぐだぐだでショートでもないショートストーリー)

「アロンアゲイン」 

E長すぎる最終回 (ヒマな時にどうぞ💦)

 蕎麦屋に二人で行った日から2週間後、ほのかにシャンプーの香りがする手紙を受け取った、香織からだった。

 「大きくて温かい背中のマスターへ
 この手紙は私の大切な恋への思いを書いてみました、マスターがお店を売ろうとされていること、働きに出ようとされていること、そのことへの私の率直な気持ちです。
最後まで読んでいただければ理解していただけると信じています。

 私はもしかしてたくさんの幸福を期待しすぎたのかも知れません、蕎麦屋で私に言ってくれましたね、その愛情をたたえた目、胸をときめかせてくれた目、うれしさで胸をいっぱいにふくらませてくれた目、それさえあれば幸福だと背中の温かさが教えてくれたと。
うれしかったです、素直にありがとうとお伝えしたいです。

 でもその前に、私の浅はかさを書かなければなりません、蕎麦屋さんで少し話しましたが覚えていらっしゃいますか?
 私の大事な妹についてです、マスターのお店にも一緒に行ったことがあるのでご存知ですよね、私の彼も一緒でしたけど。
 二人姉妹の妹は両親も気にかけるほど内気で、幼いころからすぐ私の背中に隠れるのが常でした。
 家に閉じこもり気味でなかなか友達もできませんでした。
それは大人になっても変わらなくて、私が幼なじみと会う時は、寂しそうに見送ってばかりでした。
そんな妹が可哀想で、彼に了解をとっていつも3人で遊ぶことにしたんです。
マスターのお店に伺ったのはそんな3人でのデートの時でした。
それでも妹は人見知りが激しく、私とは話しても、なかなか彼と打ち解けてくれませんでした。

 (そう言えば数回、店に3人で顔を見せたが、いつも香織が妹らしき若い女性に気を遣っていたことを思い出した。)

 その妹が結婚したのです、私より先に。 先に結婚するのはいいのですが。
でも思いもかけず、その結婚相手は私の幼ななじみだったのです。
いつも3人で出かけていた、あの時の私の彼だったのです。
 彼が選んだのは私ではなく、話しをするのも恥ずかしがるほど内気な妹だったのです。
でも心配しないでくださいね、別に悲観して落ち込んでるわけではないのです。
寂しかったのです、彼じゃなく、妹がその気持ちを打ち明けてくれなかったことが。

 彼への愛情はすでに消えていました、いえ、そもそも愛情があったのかどうかさえ今では怪しいですね、交際が長すぎたんです、恋人から友達、そして他人へと戻っていったんです。
ここ一年ほどはデートも惰性でした、それでも彼から妹と結婚したいと言われた時はショックで、自分だけがのけものにされていた悲しさが溢れて来ました。
 その時に誰かに受け止めて包んでもらいたくて、そんな人のところに行ったんです。
マスターのお店です。でも、マスターはその時は構ってくれませんでしたね。
あの帰り道は泣きました、誰も抱きしめてくれる人がいないさびしさで。

 それで結婚式の当日、優しい目をした誰かと一緒にいたかったんです。
いきなり迎えをお願いしたのに快く来てくれて、涙が出るほどうれしかったです。
だから精一杯甘えたくて、思いっきり背中に抱きついて乗っていました。
 コーヒーの香るジャケットもうれしくて、一人じゃないって心で叫んでました。

 ここからは私の浅はかさの告白です。
妹の結婚式には実は妹夫婦との別れも含んでいました、今後、彼と妹の顔を一緒に見るのは耐えられないからです、彼への愛情はありませんが、それでも彼が選んだ人が私ではなかったことへの嫉妬心があることを素直に白状します。
 その別れへの気持ちと、両親が離婚していたので私が妹の父親代わりをと思い、黒のパンツスーツで式に参加したんです。母親はシックなドレスを私のために用意していましたけどね。
 黒いスーツで別れを告げた今、妹は私が思う以上に心が強かったと気づきました。
そして、妹への愛情はまさに可哀想と思う私の同情であったのです。
 あの蕎麦屋で出迎えてくれた猫より、外の一人ぼっちの猫が愛おしいと思ってしまうのです。

 猫なんかに例えてごめんなさい、正直に言います、大切な恋と思っていたマスターへの愛も、憐憫のまなざしで見ていたようなところがあったと気がついたのです。
 本当にごめんなさい。 森野香織になれなくてごめんなさい。
だから、こんな女のために大事なお店を売るようなことはしないでください。
マスターはマスターです、いつもこのお店があると思うと安心できるのです。

 私が独身でいる限り、マスターは店を処分して外に働こうとするかもしれません。
諦めてください、私も結婚します、だから店を売る理由がありません。
目を誉めていただいたこと、忘れません。
でも永遠にこの目を見ていても、涙だけしか出ませんよ。
 マスターには私の妹のように静かでお店を切り盛りしてくれる人が一番かもしれませんね。

 長々と書きましたが、私の結婚式についてはお知らせしません。
マスターはご自分の幸せをしっかりと掴んでください、それではお元気で。」

 読み終わったマスターの頭は真っ白だった。
その時、ドアが開き、背広姿の男が店内をジロジロと見渡しながら言った。
 「居抜きで売りたいということで見にきましたが、あちこち修理がいるみたいですなぁ」
 「あ、帰ってください、もう売るのはやめましたので、さあさあ帰って帰って」
 背広の男を追いやったマスターは、コーヒーを飲んで頭を整理しようとした。
すると、だいぶ以前に棚から出したままになっていたLPレコードに気がついた。
香織が選んだ”アロンアゲイン”だ。
 思いでに区切りをつける気持ちで色の剥げた年代もののプレーヤーにレコードを載せ、
いつものように針を静かに下ろした。

「そういえばこの歌、男が女に振られた話が一番目の歌詞だったな・・・・」
 
🎵Alone again,naturally🎵

 おしまい




イイネ!(22) PC ZefMWATJ
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