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香織
01/12 13:41
『赤い車…』
午後零時を少し回った頃、その赤いRX−7は国道122号線を草木ダム方面に向かって居た…そして、こんな時間には珍しく、その僅か前方を数台の車が走って居た。丁度、ダムに向かう途中のコーナー手前にストレートな道があり、その後は見通しの悪いトンネルやワインディングになってしまう…
『もう、ここしかないでしょ?』さっきから、“走り屋”らしき集団が行儀良く前方に連なっている。『このまま足尾まで仲良くご一緒なんて、真っ平ごめんだわっ!』あたしは右のハイヒールを脱ぎ、助手席に放り投げるとボディコンの裾をたくし上げ、シートの背もたれを起こし座リ直した。
先頭は86、そしてMR2、シルビア、シビック、の順だった。あたしは対面で立地する遠くのGSの看板付近まで対向車が来てない事を確認してから、回転を合わせギアを4速から3速、2速へと落とし、アクセルを踏み込んだ。“プシュン、プシュン、ブ、フォウンッ!”ブローオフの音と、タービンの過給音が入れ替わり、ロータリー特有の低いエキゾースト・ノートを奏でる、同時に対向車に割って出た。
左コンパネ下、丁度、左ひざ頭にある”ブースト計の過給圧が0.9kg以上に上がらない様に気をつけ、VVCのダイヤルを回すとアクセルを踏み込む…『1台、2台、3台…』あっと言う間に4台追い越すと、何も無かったように元の車線に戻った…すると、1台が群れから離れ、香織の車を追いかけて来た。『あぁ、もう面倒くさいっ!』
直ぐ草木ダム手前の左コーナーに差し掛かる。あたしはステアを1旦右に切り、すぐさま左に鋭く切り返すとリアタイヤが流れ出す。『ギャ、ギャッ!』POTENZAが悲鳴を上げる。と、また右コーナー、そのままカウンターをあてながら、次の左コーナーをドリフトしながらクリアーして行く…ミラーにはもう後続車のライトは見えなくなって居た。
草木ダムを過ぎ、しばらくワインディングを中速域で流し、トンネルを2回ほど抜けると足尾の町が見えて来る。採掘場跡の断崖に切り立った山の中腹に、大きな”穴”が開いている。『ラドンでも出て来そう…』その眼下にはオレンジ色の街の明かりが、ぼんやりと浮かんで見える、夜見ると益々不気味な光景だった。
イイネ!(24) PC
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