[8]  さわこ
06/29 10:49
第五回 妄想

「ただいま〜、ごめん 遅くなって」

私が帰宅したのは10時を過ぎていました。
省吾くんよマンションからだとだいたい1時間くらい、寄り道せず真っ直ぐに帰ってきたと思います。
少し記憶が曖昧でした。

こんな歳になってこんなにドキドキするなんて。

‘’私は行かない方が良かったのか?”

そんなことを考えながら帰路を急ぎました。

省吾くんのマンションでの時間を電車の中で思い出していました。

帰った私は居間に入り鞄を下ろしながらコートを脱ぎました。いつものニットのセーターとデニムパンツです。
普段の私はデニムパンツとセーターやニットを着ることがほとんどで通勤もデニムパンツがチノパンに変わるかスカートに変わるか、それぐらいしか変わりません。

「ああ、お帰り。結構遅かったなあ」

夫が言いました。
私はビクッとしましたが、つとめて冷静に会話を続けます。

「そうなのよ、調味料もなにもなくてね、
普段からどんな生活しているかすぐにわかるわね。一緒に作るとすごく時間かかっちゃったのよ」

違います…ほとんど私が作りました…

「そうか、それで少しは省吾君も自炊する気になったのかい?」

私は省吾くんの様子を改めて思い出しながら

「どうかな、でもこれから少しはするんじゃないかしら。私に頼られても困るしね」

私は省吾くんの家にまた行くことになったら…その不安がありました。

夫は私の顔をマジマジとみているような気がしましたが気にしないようにしました。
省吾くんに勧められたワインのせいだけじゃない理由で顔が火照っているようにも思えましたがアルコールのせいにしたのでした。

「あなた、先にお風呂に入って。私 後片付けがあるから」

鼓動が止まりません。

「そうだな、先に休ませもらうよ」

「うん」

夫がお風呂に入っているのを確認してホッとした私は省吾くんにメールをしました。
なぜだかわかりませんがその日は主人に隠れてメールをしていました。

Wたった今無事に家に帰りましたよ。
今日はどうもありがとう。すごく楽しかったです。
でも、今度は少しぐらい自分で作ってね。
早く食事を作ってくれる彼女ができるといいね。じゃあ good night ! ゛


私は片付けを終えてお風呂に入りベッドに入りました。
その日あったこと、省吾くんのマンションでのことを思い出していました。



「おじゃましま〜す」

「どうぞ、散らかってますけど」

「うわーぁ、ほんとに散らかってるわね。
いかにも若い男の部屋って感じ」

私はコートを脱ぎながら言いました。

「さぁーてと…」

私はは買ってきた食材を出すとキッチンに向かいました。

「あれーーぇ、省吾くん、調味料は?お米もないけど…」

「いやー、そういゃあ ないですね。使わないし、腐っちゃうから」

「もーっ しょうがないわね!」

私はタイニングの椅子に腰掛けて、メモに何を買ってきてほしいか書いて省吾くんに渡しました。

「ねえ、これ買ってきてくれる?」

「はーい、わかりました」

省吾くんは出かけていき、私ははキッチンに立って準備を始めます。
しばらくすると省吾くんが帰って来ました。
買ったものを出して私が用意を始めますが省吾くんは私の周りをウロウロするだけで落ち着きません。

「ちょっと!落ち着かないわね。動物園のクマみたいにウロウロして!やることが分からないんでしょ?」

「はい…すみません。」

「まったくもう、いいわ、私がやるからそこで見てて?」

「わかりましたぁ。」

「こら、ただ見てるだけじゃダメなんだからね覚えるのよ?」

「…わかりました…」

やがて食事が出来上がり、和室で2人向かい合わせになって食事を始めます。

若い省吾くんは食欲旺盛でその食べる姿がとても印象的で、

「それだけ食べてくれると作りがいがあるわ(笑)」 

「えへへ、そうですか?ありがとうございます。」

「ありがとうございますじゃないわよ!私の周りで落ち着かないでウロウロしてるだけだったんだから!料理のお手伝いに来たのに私が準備しちゃったじゃないのよ、もぉ」

「すみません。」

そんな話をしていたと思います。

省吾くんがサイドボードを指差しながら

「そこにお客さんにもらったワインがあるんですよ。里美さん よかったら飲みませんか?」

と言ったのは食事も終わって二人でテレビを見ていた時でした。

「へーっ、高級そうなワインね。
私 お酒あまり飲めないけどワインならいただいちゃおうかな」

省吾くんが新しいコップを出してきて注ぎます。

「あーっ、おいしい。すごく飲みやすいね。後がちょっとこわいけど」

2杯目を飲み干したら

「そうですよね。ワインは結構後から酔いがまわりますよ。
でもまあ、最後の一杯ということで」

省吾くんはワインを注ごうとしました。

「えーっ、私を酔わそうとしているでしょ(笑)」

「まさか、とんでもないですよ!」

省吾くんは真顔で否定しました。

「あはは…f^_^; それよりさ、健太くん、聞いてもいい?」

「ええ、何ですか?」

「省吾くん、彼女いるの?」

単なる好奇心でした。

「う〜ん、いないですよ。いない歴がもう2年かな」

「ホント?そんなふうに見えないわ。ねぇ、モテるんでしょ」

私は少し酔っていたのでしょうか、ややテンションが高い感じで省吾くんを質問攻めにしてしまいました。

「全然モテないですよ。僕、これでも奥手なんですよ」

「ふ〜ん、でも好きな人とかいるでしょ?」

「ええ…いますよ。内に秘めてますけど」

省吾くんは視線をそらしながら言いました。

「なんだーっ、いるんじゃない。
じゃあ、さっさと告白しちゃいなさいよ。
誰なの?会社の女の子かな。
言えないなら私が言ってあげようか?」

省吾くんは、やや言いにくそうに言いました。

「いえ、なんて言うか…
その人、結婚してるんです。だから…」

「へーっ、そうなんだ。叶わぬ恋ってやつね。
その人、お客さん?」

省吾くんは真っ直ぐに私を見つめながら言いました。

「そうです、今僕の目の前にいます」

省吾くんの言葉に私は一瞬固まってしまいました。

“え?え?…ええっ?!”

私は気まずい雰囲気をかき消すように

「あはっ(笑) どうもありがとう。
うれしいわ、そんなこと言ってくれて。
今日食事を作ってあげたご褒美かな」

「あっ、いや、あの…里美さん…」

省吾くんは何か言おうとしましたが、私はそれ以上聞いてはいけないと思い立ち上がりました。

「もうこんな時間だわ。省吾くん、私帰るね」

私はコートを着ると、出口へ向かって歩き始めました。
省吾くんは私の後ろに歩み寄って言いました。

「里美さん、あのぅ…また、来ていただけますよね?」

私はは振り向いて「そうね〜、じゃあ次は省吾くんの手料理をご馳走になりに来るわね、じゃあね」

笑えていたかどうかわかりません。
何故そう答えたのかもわかりません。
そう答えたのが正解だったのか…また来る…なんて…

私は年甲斐もなく手を振りながら出ていきました。

健太くんのマンションから駅まで、電車の中のことも曖昧にしか覚えていません。

若い男性に想いを告げられてしまい動揺していたからなのか。
彼の一時の気の迷い…そう考えるようにして眠りにつきましました。
一抹の不安を残して…

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