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くまさん🐻
01/15 23:11
「甘く危険な香織」シリーズ
@夜明けのトワイライト湾岸線 ”疾走の黒い淑女”
その二
熊野神社の別名である十二社の名がついた十二社通りから右折し、
さらに新宿中央公園から右折して都庁前を通過すると新宿入口から首都高速に上がった。
20号線を跨ぐ坂道を一気に上がると、さすがに早朝だけあって短い合流車線にも車が見えなかった。
4号新宿線、両側を壁に挟まれた道路が外苑近辺を過ぎるころからアップダウンと
トンネルの連続でいかにも首都高速らしい道が始まる。
「アップダウンとトンネルか、今回の仕事も少しはそんな部分があったかな」
去年の夏が始まる頃、夏休みとは逆に香織の仕事がスタートした。
ポニーテールに結わいた髪は黒に染め直し、典型的リクルートスーツの濃紺の
上下スーツ姿に背の低いパンプスを履いて、もちろんスカート丈は膝の少し上までで前に合わせた両手で黒いA4サイズのバッグを抱えていた。
一言で言うと、清楚を絵に描いたような外見だった。
そんな清楚な香織が訪問した邸宅は千葉の新浦安の新しい分譲地域「ジ・アイルズ」の中にあった。
海辺の戸建てとして人気のこの住宅地は、都心から比べるとかなり地価が安いためか、豪華な顔を見せる邸宅がここかしこに胸をそらすようにして存在している。
そのうちの仰々しい数奇屋造りの一軒に入ると、黒い御影石が敷かれた4畳半ほどの広すぎる玄関で挨拶した。香織は心で家主の性格が玄関に出ていると思った。
「初めまして、美咲香織と申します。センターから派遣されて伺いました家庭教師です。」
事務的なそんな言葉に、受付に出た男は香織の全身をじろりと舐めまわすように見た。
「先生に伝えてくるから、ここで待ってな」
緑という変わった色の背広姿のひょろりとしたその男は薄い三白眼の目をキョロキョロと不安定に
動かしながら奥に消えた。
市会議員だったから先生と言われるのだろうが、ヤバい噂のその先生は多分直接は出てこないだろう、
香織は頭の中で予想した。
まるで墓石の上にいるような雰囲気と、やたらと白くて太い柱が目立つ家だった。
玄関正面には有田焼かと思われる巨大な壷が飾ってある。
「上がんな、娘さんの部屋に案内するぜ。」
予想通り緑の男だけが戻ってきて顎をシャクって香織を案内した。
足を踏み入れた香織は、家全体に充満している微かな焦げた匂いに不快感を抱いていた。
新宿入口から数分後、トンネル内にある三宅坂ジャンクションで4号新宿線から都心環状線外回りに合流した。
合流車線に余裕はあっても交通量が多く危ない場所ではあるが、それも夜明け前の今は当てはまらない。
トンネルを抜け、千鳥ヶ淵、お堀と一気に越えていく。
一時的に東京駅真下を走る八重洲線を走ったあと、再び都心環状線の広い3車線道路に戻った。
空がやや明るみを含め始めると同時に、湾岸エリアのビル群が目に入ってくる。
「やっぱり気持ちがいい、このチャンスをくれた部長、いやボスに感謝かな。」
追い立てる車もなくのんびりと走っておおよそ20分弱、白み始めたスカイブルーの空を背景にまさに赤みがかったトワイライトなレインボーブリッジが姿を現した。
イイネ!(2)
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