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くまさん🐻
01/21 19:12
「甘く危険な香織」シリーズ
@夜明けのトワイライト湾岸線 ”疾走の黒い淑女”
その五
下着を剥ぎ取られ裏返しにされた香織の背中に日の出ボスの体が重なってきた、熱い体温が妖艶な湿り気を呼び、自由をうばわれるその重さが心地いい。
長い髪をもてあそばれ、首筋に口を這わされると香織の肌が粟立ち、声にならないうめきをもらす。
両手をばんざいさせられると開いた脇に顔をねじこんできた。甘い体臭は香織のものか、舌で味わおうとするボスの息が荒くなったようにおもわれた。
地上200メートルのホテルの一室、観覧車を見下ろすように、また我々の行為をだれかに見下ろされているような気分になってきた、窓からさす快晴の朝日のせいだ。
ボスの愛撫を背中にうけながら、やがて意識は白いもやの中に消え入りそうになってくる。
亜弥の中学で2学期の試験も過ぎてまもなく、いつものように落日間際の弱い陽が差し込む亜弥の部屋に入ると。
「美咲先生、うちの先生が呼んでいなさる、下のリビングにお願いしやす」
亜弥の部屋をノックもせずに開けた緑色の男は、用件を告げるなりさっさと一階におりてしまった。
この家に来てすでに2ヶ月ちかく経つが、今日は珍しく主の伊東久造がいるらしい。
「香織ちゃん気をつけて、あいつは悪党だから」
部屋から出ようとした香織に亜弥が声をかけた。
家庭教師を香織ちゃんと呼び、自分の父親を悪党とのたまう娘も相当なものだと思った。
ちょっと行ってくるわねと言い残して階下のリビングに降りていく。
この家にはおおよそ20人ほどの男たちが住み込んでいる、おそらく刑務所から出所した連中だと思われた。
市会議員であると同時に保護司をしている伊東久造は、出所してきたあてのない男たちを面倒みていた。
緑色の男もその一人であるに違いない。
リビングに入り、長いソファに悠然と腰かけていた男が久造と思われた。
ひととおり初対面のあいさつを交わしたあと、久造は満足そうな顔で言った。
「先生、よくやってくれました、お礼をいいますぞ、学校の方も家内も満足しておるようだ」
単なる礼を言うだけの面会ではない、香織を推し量るためであるのもわかっている。
高校を卒業しただけの成り上がりである久造は、囲っている愛人と種類のちがう清純で知性的な女性に好奇心が強い。
長いテーブルの横の椅子に腰かけた香織の正面には、緑の男がテーブルの向こう側に座り、相変わらず三白眼をさまよわせていた。女房の姿はみえなかった。
久造は悠然と構えているように見えるが、その狡猾な視線は香織の頭から足までをなんども往復していた。
「なんとかお役にたてて光栄ですわ、亜弥ちゃんも素直で今度のテストも楽しみですよ」
久造の角張った顔は前もって知っていたが、大きな顔に反比例して首から下がアンバランスに小さかった。
おそらく香織よりも身長は低い、その妙な体型と大きな顔を一言でいうなら、ちんちくりんだった。
ちんちくりんは寿司をとるから食べていけという。断る理由もなく、むしろチャンスととらえ、はにかむしぐさで了解した。
刑務所から出所・仮出所するもの、及び少年院も同じで、保護観察を必要とするあいだは専門の監察官の監督を受けねばならない。
ただ、全国に配置されている保護監察官は600名、総数でも1000名足らずといわれている。当然実数として不足である。
不足する保護監察官を補うのが保護司である、試験などないポランティアの立場で保護監察官の業務を補佐する。しかしこちらも高齢化と、なり手がいないのが現状で全国で減少傾向にある。
市会議員の信用をバックに保護司を引き受ければ、反対の意見がでるわけもなく、むしろありがたい話であった。
刑事事件を起こした組員は組から破門されるが、当然見かけだけで、組に害がおよぶのを防いでいるにすぎない。
元来所属していた組に顔がきくという理由から、こういう元組員などが出所してきた場合のみ、ちんちくりんは保護を引き受けていた。
もちろん集団であっても、暴力組織ではなく関係者団体でもない善意のボランティア団体なのである。
「ほお、先生の出身地は北海道ですと、それはおもしろい」
なにがおもしろいのか、ビールをあおりながら上機嫌だが、歯についた海苔はどうにかしろと思った。
「寒いだけでおもしろいことはありませんわ。両親も亡くなって、残してくれた古いアパートが私の頼りですの」
「それじゃ、家庭教師はお遊びで女遊びと一緒ですな、はっはっは」
ゲスの話はどこまでもゲスだ、女性に対していう内容でもなかろう。
「ほかにも税金を心配しなくちゃならないだけの、野原があるだけなんです」
「ん?野原ですと、どこにあるんですかな?」
食いついた、目がすわり、香織の方から視線を動かさずに、言葉は丁寧だが物件が食えるかどうか確かめようとする。
「倶知安という町なんですが、ご存知ですか」
「ほぉ、ニセコのスキー場が近くにあるところですな」
「スキー場は町の南の方ですけど、私の土地は反対の北側で道路も満足に通ってない畑ばかりのところですの」
よかったら一度調べて上げましょうと言うちんちくりんの言葉に、お願いしますと答えて仕出しの寿司を摘んだ。
夕食の寿司にお礼を述べリビングを出ると、すぐさま久造は家でたむろしている何人かの人間を呼びつけていた。
悪党は金になる話には行動も早い。 ただ、その行動が針にかかる行為だとも気づかずに。
イイネ!(24) PC ZefMWATJ
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