[860]
くまさん🐻
01/23 19:26
「甘く危険な香織」シリーズ
@夜明けのトワイライト湾岸線 ”疾走の黒い淑女”
その六 後編・・・(コレデオシマイ)
「あぁ、あの土地なら数日前に五菱地所から話があったので売りました。兄も了解した上です。手付の2億円ももう振り込んできました。」
あっけらかんと香織が答えた。
「なんだって!」
久造はおどろいた、いきなり冷水を浴びせられたようだ。
女房が件の教団から引っ張り出した一億の金でさっさと土地を手に入れようと上機嫌で香織を呼んだはずだった。
「いったいいくらで売りなすった」
「全部で15億で。手付の残りは週明けにも振り込むと言ってました」
またもやあっけらかんと答える。
久造の腹は怒りで煮えくり返っていた、あわよくば数千万の金で手に入れるつもりだった、いざとなれば20人の前科者と警察OBもいる、威圧と脅しでこんな小娘ひとり、わけはないと踏んでいた。
だが悪だくみはあえなく潰えてしまった、すでに売ってしまったというのだ。
第三種空港は建設費の60%前後を補助金としてあてにできる、しかも北海道・沖縄・離島はさらに割増の特例がある。残りを地方や民間が出資するせいで、北海道には14個の空港が存在するようになった。
そこに最後ともいえる空港の計画をつかんだのだ、しかも金のなる土地の所有者が久造の手の上にいたのに。
「そのはなし、なんとかこっちに回しては、くれませんかね」
言葉に哀願がこもりはじめた。 まだ20億以下なら利益が出ると予想したのだ。
「え〜、それって、五菱地所の方と話してもらえませんか」
五菱地所も利益のために買い取ろうとしているのだ、交渉などできるはずがない。
「いやいや、あんたの言い値に近い値段をだすから、頼みますよ」
五菱地所が振り込む週明けまで数日しかない、今日でカタをつけないともう無理だと判断した。
五菱地所が出てきたことが焦りになっていた。 それが久造一派の命取りになった。
週明けの日、兄と呼ばれた日の出ボスを伴い、東京の弁護士事務所で正式な契約を交わした。
手付金を倍返しするということで五菱地所の担当者も同席した。五菱側は警護の数人の人間も来ている。
さすがに暴力を使って払った金を取り上げるといった荒っぽい方法もできなくなった。
その日に無事契約は終了し、違約金4億を五菱地所に払い、残りが16億になった金を小切手で香織に支払った。
その金の出所は、例の宗教法人が8割を出し、残りを北海道の暴力団3ヶ所から預かっていた。
数日後、香織は家庭教師の派遣が終了した旨を亜弥に伝え、このミッションの仕事を完了した。
そして、久造たちの楽しみは、残念ながらサンタクロースが来るまえに消え失せた。
架空の空港建設をでっちあげて、ある宗教法人を詐欺にかけた罪だとテレビニュースが伝えていた。
総額50億の借金を宗教法人に申し込んだが、金額があまりに大きいので不審に思った担当者が調べた結果、でっちあげであることがばれて、警察に告訴されたという。
「ボス、でっち上げと言ってますよ、詐欺罪だそうですが、ふふ」
「ばかいっちゃいかん、ないのにあるというから詐欺になる、我々のはちゃんとあっただろう。
ただ、それが中止になったり、計画が消えることはあるかもしれんが。」
当て込んでいた計画が消えてしまった久造は、今度は借りていた金の返済に困り、女房を使って教団を騙そうとした。 そんなところであった。
警視庁捜査二課の警部である朝比奈和彦、通称日の出ボスは国税局特別査察部の外班に出向している。
しかし、国税局の管理下にあらず、彼の上司は総理官邸にいた。
内閣調査室、日本の情報機関の頂上である、そこのメンバーは警視庁から出向して通称官邸ポリスと呼ばれている。
その官邸ポリスの一人からスカウトされた日の出ボスの仕事は、国税局のもっとも苦手としている部門だった。
それはまったく課税されずに放置されていた暴力団である。
暴力団はPTAや町内会とおなじ任意団体であり、上がってきたお金は団体運営に使われる限り課税の対象にならない。
へりくつだった。要は怖かったのだ。当然である、国家公務員上級試験を目指して勉強に明け暮れていた人間が、理不尽あたりまえの暴力団にかなうはずもない。
適当な言い訳を作って目をそらし続けていただけである。
アメリカFBIの調べでは、山口組の年間の収入は5000億を越すという。一つの組でこれである。
ちなみに世界でもロシアンマフィアに次いで2位の収入だそうだ、そんな莫大な収入が非課税という。
こういう理不尽な連中から脱税を取り締まるのではなく、非合法なら非合法で金を巻き上げるのが彼の仕事なのだ。
上司である官邸ポリスの一人は、その金をある勢力から日本を守るために必要なものだという。
したがって、取り上げた金は日の出ボスがプールするが、使い道は彼の独断にまかされていた。
「ボス、そろそろメンバーを増やしませんか、あたし一人だと退屈です」
甘えた声で上目遣いでボスを眺める、さきほどまでのセックスではまだ足りない顔をしていた。
「上司次第だな、人事は上司の山下達郎に聞かねばならない」
「え? 山下達郎?あの山下達郎ですか?」
香織のちょっとびっくりした可愛い顔を人差し指でなぞりながら、ボスは片方の手で香織のふとももをさする。
「いやいや、上司は変装の名人というか、変わり者というか、有名人の名前をいろいろかたる癖があってな。 遊び半分なのかもしれないが、今回の仕事といい、手抜かりは一切ない。
そういえば、このまえは水戸黄門とかいって電話をかけてきた。」
「あははは、おちゃめな上司なんですね、そんなおちゃめで官邸ポリスが勤まるんですね」
「おちゃめじゃなく、あらゆるところで盗聴されるのを用心してのことだ、タバコあるか」
あ、なるほどねと言って香織のトレジャラー・ブラックの箱をボスのそばのベッドに投げてよこした。
「ずいぶんと贅沢なタバコを吸ってるな、洋モクか」
「で、黄門さまによると次の仕事はいつになるんでしょう」
ボスはバスローブを羽織るとタバコを1本匂いをかぎながら窓際に立って、やがて昼がおとずれようとする横浜の港を見下ろした。
「そうか、次ね、次の物語はどうなるか、まだ今はわからんな」
いいながらゴールド色のタバコを咥え、火をつけ、バスローブの襟を立てて白い煙を静かに吐き出した。
イイネ!(22) PC ZefMWATJ
[編集] [削除]
親スレッド
管理