[9]  さわこ
07/01 19:04
第六回妄想

あれから一ヶ月。
私たちはまた他愛のないメールのやりとりに戻っていました。

私は省吾くんの突然の、そして思ってもみない告白に戸惑いました。
16歳も歳下の男の子に、いえ、本当なら32歳の彼は“男性“と言わなければいけない年齢なのです。ですが私たち夫婦の子供たちに近い年齢なのでどうしても“男性”としてみることが出来なかったのです。
メールアドレスを教えたのも省吾くんの明るさと真面目さが私に警戒感を与えなかったこと、そして一人暮らしをしている息子を重ね合わせてしまっていたからかもしれません。少なくとも近所に住む甥に連絡先を教えるような気持ちで連絡先を交換したのでした、あの告白までは。

彼も一人前の男性なのですから当然恋もするでしょう。何人か彼女もいたことを普段のやり取りの中で聞いていましたから。ですがその若い一人の男性の想う人、それが今は私だなんて…

省吾くんは母親とは不幸な別れ方をしたようで音信不通だと聞いています。母性に対して憧れがあるのでしょうか。
私は省吾くんの気の迷い…そう思うことにしました。

“いつの日か気付くんだからその時に気まずくならないようにしてあげなきゃ”

そう思うことにもしました。年長者として、母親代わりとして振る舞おう、そう決めたのです。
ですが、その反面、若い男性にW好きです。Wと言われて浮かれている自分がどこかにいるのを感じていました。
私は麻木の妻として、継母であったとしても成人して独立してはいるものの娘と息子がいますからその二人のが母でいなければなりません。それに省吾くんの親御さんと同じ年代の年長者としてW女Wを出してはならないし隠して居なければいけません。ましてや私自身の身体は…
私は極端に減ってしまっていた夫との夫婦生活の為に埋もれさせていたW女Wを省吾くんの“告白”のせいで意識してしまっているのでした。

今はまだ妻として、母として、年長者としての気持ちが上回っていてそう振る舞えます。でもW女Wがそれを超えてしまったらどうしよう…私は不安になるだけでした。
だからできるだけそのことは考えないようにしていました。

その後、普段のメールのやりとりの中の省吾くんはW告白Wなんて無かったことのように振る舞うメールを送ってくれるので私も平静で居られたと思います。
私自身も忘れるよう努めていたので普段の他愛もない会話がそれを手助けしてくれ次第に忘れ始めていました。

それから一ヶ月ほど経った三月中旬頃、省吾くんからメールが入りました。

W里美さん、あれから僕なりに練習をして少しは料理も作れるようになった気がします。もちろんレパートリーは少ないですが(笑) 今度は料理の試食に来てもらえませんか?うまく作れたらご馳走することになります。いかがですか?W

こんなメールでした。

私は、あの“告白”のショックが幾分和らいだ頃でもあったのと、今度もしW告白Wめいたことがあったなら一つ釘を刺しておかなければいけない、そして目を覚ましてもらおうと思いながら返信をしたのでした。

“そうなんだ。でも、ほんとに作れるの?それにそれ試食じゃなくて毒味じゃないの?”

“里美さん、ひどいなぁ。簡単なものなら少し作れるようになったんですよ。”

私はしばらく返信ができませんでしたが意を決して

“そう…じゃあ、お伺いしようかな。“

“はい、お願いします。アドバイスもいただきたいですから。”

“わかったわ。”

“やった!じゃあ、いつ頃ですか?」

手帳を確認します。

“来週の〇曜日は?”

一週間と少し先の日を言いました。

“わかりました。仕事調整します。麻木さんにもお話ししておきますね。”

“大丈夫よ? 私から話しておくから。”

“でも、以前の時もお願いしましたから今度は僕からがいいのではありませんか?”

“ううん、大丈夫よ。ちゃんと話しておくから。あなたは…大丈夫でしょ?”

“? 何が大丈夫でしょ、なんですか? やっぱり、ご主人にご許可いただくのは僕がしましょうか?”

“ううん、大丈夫、私が話しておくから。”

最後の一言のことは返事しませんでした。

メールが来て一週間くらい経った約束の日…

「今晩また省吾くんのマンションに行ってくるね。今日は省吾くんがご馳走してくれるって言うから」

当日の朝、夫の出勤前に、私はさっと話しました。

夫はやや大袈裟な感じで返事をします。

「本当かよ?あいつが料理をするのかい」

「ちょっとあやしいけどね。
今日は僕が作りますから試食してくださいって言うから、それ試食じゃなくて毒味じゃないのって言っちゃった」

「ははっ(笑)お前もきついなあ。まあ、食生活には十分気をつけてやれよ。
料理が出来なくても、牛乳とか納豆とか身体に最低限必要なものを毎日摂る習慣をつけてやったほうがいいな」

夫は心配している素振りはありません。

「そうよね、夕食は用意しておくからお願いね」

“そう…私は省吾くんの健康のために料理を教えに行くの…”

省吾くんとのメールはあのW告白Wの日から他愛も無い会話に終始することで核心に触れることはありませんでした。
その事についてお互いにさけているように感じられていて、当たり障りのないものばかりになっていました。

そのお誘いはきっと省吾くんもこれ以上は諦めてくれたのかも…と私も思い始めた頃のことでした。

そして、私は省吾くんに招待を受けたのでした。

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