[934]  日の出和彦
02/01 00:11
第2章
 
真っ暗に感じた映画館の中でも、闇の濃度に目が慣れてくると周囲の状況が朧げに見えて来る。
 週末の午後にも関わらず、例の流行り病のせいか観客は斑しかいなかった。最後列の席の後ろに手摺が設置されており、香織は館内出入口に近い側の手摺に身を持たせ暫く佇んでいた。そこから見渡せる観客数は、最前列の席に4〜5名、2列目3、4列目共に6〜7名、そして5列目には2名と案の定少ない。
 だが香織の後ろ側壁にも2〜3名が立ち見をしていた。
 香織が館内に入ってきた時、出入り口の真向かいの席に座していた男と立ち見している男が、香織の入って来る方へ眼を向けた。
 薄明りの中ではあったが、その眼は確かに香織を値踏みするやらしい眼付きだったのを見逃さなかった。
 ヒールの高いパンプスを履き、スラリと伸びた肢にミニのスリット入りのタイトスカートに透けたブラウスを身に着けた女らしき人物とくれば、男なら眼が行って当然であろう。
 男達に視線で犯される悦びが、早くも香織の胸中を占領し始めた。
 館内に入ってまだ20分も経たない内に、立ち見していた男の一人がいつの間にか香織の横に近付いて来ていた。
 香織の動悸が高まる。
 男が香織の肢体を上から下まで目線で舐め回す。
 手摺にかけた香織の指に男がそっと触れた。
 男の荒い息遣いが香織の左耳を擽る。
 頭一つ分男の方が背が高い様だ。
 指に触れていた男の手がゆっくりと離れ、ミニタイトのスリットに移った。
(ああッ来てる・・・)
 細かい粟立ちが香織の下半身に奔った。
「お姉さん、いい躰してるねぇ」
 聴き取れるかどうかの小さな声で、男が香織の耳朶に囁きかけて来た。
 シャワーコロンの心地よい香りが漂う。
「私をどうしたいの?」
「お姉さんを気持ちよくしてあげたいのさ。いいだろう?」
 そう囁くと、男はより一層身体を寄せ腕をヒップの膨らみまで伸ばして来た。
「おお、ナイロンTバック穿いてるの、やらしいねぇ・・・・」
 男の指がお尻の細い生地を確かめながら、円を描く様に香織を刺激する。
(ああ嫌ッこの人やらしいッ!!)

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