[962]
くまさん🐻
02/08 10:44
2次小説
美咲香織 原作「道の駅 "雨の休日"」より
「元禄聞きかじり」
”独白” その二 (全三回)
「いかがなさりました」
ズイと寄り添って、阿闍梨の熊野坊(くまのぼう)さまが、お方さまの肩を無造作に横抱きにされますと、
「え、なにを」
と思わず口走るお方さまの薄紅のくちびるへ、有無をいわさず口を重ねておいでになられたのでございます。
八百善(やおぜん)より取り寄せた韃靼(だったん)そばと近江の干瓢巻(かんぴょうまき)を夕餉(ゆうげ)にとお持ちした時でございました。
召使いのわたくしどもの手前など一切知らぬとばかり、脇息(きょうそく)に白いうなじをみせて頭を垂れ、お気苦しくみえたお方さまに膝を寄せていかれたのでございます。
「これで気も楽になられましたろう」
と耳元へささやかれますと、お方のさまが先ほどとは打って変わって、燃えるような目を見返して黙ってうなずかれたのでございます。
これが山伏行者の験力(けんりき)と申すものでございましょうか、無礼なるふるまいとならずに悪気を払うしぐさ、
さすが阿闍梨さまと感心した思いでございました。
当お宿の主、日出家の家紋は稲の丸紋でございまして、これは熊野神社の神官や氏子などが使用していたらしゅうございます、その末裔(まつえい)であろう主の祖家が勧請(かんじょう)した熊野権現の祠(ほこら)が、屋敷の敷地内に立ててあったりして、熊野とのつながりはずいぶんと深うございます。
毎月の不動明王さまとの縁日には、新宿追分の角筈にございます熊野十二社神社より行者の方がお見えになって、護摩法会をやっておりました。
「香織の方さま祈願のことについて、そちらの護摩法会にて祈祷願いたいとのことでござります」
年配のお侍女(こしもと)が来られたのはちょうど前の法会の時でございました。
うわさを聞きつけてこられたにせよ、将軍さまに繋がりのあるお方となればそれにふさわしい格のある阿闍梨さまが必要と、熊野から船を仕立てて来ていただいた次第でございます。
夕餉もお済みになり、宵五つ(午後8時)の鐘を合図に奥座敷から離れの法会の場へと一同の方が揃われていよいよ阿闍梨さまの陀羅尼経が流れ始めたのでございます。
この離れは元々夏の涼みのために作られた二階家でございまして、縁は大川に面しており、今宵も水面が松明(たいまつ)をあげて行き交う舟の灯りに煌めいて(きらめいて)おりました。
「ナモアラタンナ・タラヤヤ・タニヤタ・アキャマシ・マキャマシ・・・」
その不思議な呪文とともに、阿闍梨さまは両手で九つの印をむすび、一切の禍を除かれておられるのでございます。
二階の床と一階の天井を外し、吹き抜けとなった座敷には屋根の小屋組もみえて、たとえ護摩の炎が一丈といえども燃え移ることはないようにしてございます。
不動明王の仏像を前にして護摩の火がいよいよ盛んになりますると、熊野から直接お持ちになったという宝ものの伽羅の護摩木をくべられました。と同時に離れ全体が甘いような香りに包まれて、なにやら足元がぐらつき始めたのでございます。
ぐらつき始めたのはわたくしの頭の中のようで、阿闍梨さまの背後に整然とお座りになっておられる方々、御用人、侍女、宿の主人と女将、仲間などの方々は格別変わりなく端坐されておられるように見えたのでございます。
わたくしどもは座敷ではなく、廊下に控えておりますので、阿闍梨さまの左手から右奥を見る形になりまして、そこにはお方のさまがお一人座っておいでで、紫縮緬の代わりに白い袈裟を羽織っておられました。
やがて半時ほどすると、どこからともなく一人の行者がお方のさまの前に現れて、やおらお方のさまを抱きしめ、体をまさぐり始めたのでございます、されどお方のさまは拒むこともなくその行者の男の膝からしなだれかかっておられたのでございます。
その間も阿闍梨さまの陀羅尼経はよどみなく、そして護摩の火もひたすら燃えつづけていたのでございます。
阿闍梨さまの真横の部屋で繰り広げられているそれは、まぎれもなく淫蕩(いんとう)な行為なのでありますが、見えているのは阿闍梨さまとわたくしだけかも知れません。
行者の男はすべてをむさぼりつくすかのように口を這わせ、香織の方さまはそれに答えるように息を弾ませておられるのをみていると、大年増のわたくしすら体の芯がうずきそうでございました。
男の手はお方のさまの胸へとすべりこむや、まろやかな円丘をさぐりだしたようで、妖婦と化したお方のさまの肌は激しい愛撫を待ちかねたかのようにひざ前までたわいなくゆるんで、裾からのぞく赤い縮緬がしどけなく男の手をさそっているのでございました。
胸をはだけられ、男の口の愛撫が胸元にうつりますと、手が無遠慮に妖婦の秘密をさぐりあてた時から、男も"女"もいよいよふたりきりのあやしい淫夢の中へまきこまれていったようでございます。
イイネ!(22) PC ZefMWATJ
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