[974]
くまさん🐻
02/10 21:43
>>971
日の出氏へのオマージュとして
二次小説 原作 日の出和彦 「淫美の宴」より
"合鍵"
その一、 (全三回)
夕刻の帰り道、電車から降りた香織がホームを出口へと歩いていた時、一瞬、彼の匂いがした。
立ち止まり振り返った香織の視線の先には、行き交うさまざまな男たちの姿があったが、ラグビーで鍛えた体を窮屈そうに背広に押し込んだあの大柄な背中とゆったりあるくさまの男は見えない。
「いつみてもいい女だぜ」
体の欲求が高まると、彼の言葉も野獣になった。
あのときの言葉は荒々しくとも、彼は建築会社に勤める普段は丁寧な対応をする営業マンなのだ。
そんな彼の野獣の言葉に、香織は支配されてる喜びに浸っていた。
いつも後ろから抱きすくめられ、器用に舌を使って香織の耳を愛撫すると、思わず「あぁ」と声がもれた。
その舌と口が首筋に移動するころには、その触れる感覚とこれからの愛撫への期待感で妖しい夢の世界へと入り込んでいた。
甘い生活だった、わずか半年とはいえ忘れられない時間と彼の愛撫だった。
「彼は、私を女にした男」
口の中でつぶやきながらぐるりとあたりを見回し、いるはずもない彼の姿をさがしている自分におかしさがこみ上げてきた。
「あたしってこんなに未練がましかったかな」
だらだらとあるいて駅前のバス停に立った。立春を過ぎたばかりの街にほこりまみれの生ぬるい風が吹きよせる。
バスに乗るまえに小銭を出そうとしてバックの中を覗いたのだが、別のものを見つけてしまった。
合鍵を。
彼のアパートの合鍵を見つけてしまった、偶然か故意か、自分でもよくわからない。
ただ、今思っていることははっきりとわかっていた。
「あの人に、もう一度抱かれたい。私を女にしたあの人に・・」
しかし、それは果たせられないこともわかっていて、香織は合鍵をぎゅっと握り締めて、鉛色のまだ冬の景色の中にある空をみあげていた。
イイネ!(22)
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ZefMWATJ
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