[382]  宮崎留美子
05/08 19:36
★1枚目の写真・・・以下の文中にでてくる「横道の大きなポプラの木」です。3年前、札幌を訪れたとき、自分の女装娘としての原点のひとつを見てみたいと行ってみました。木は切り取られていました。
★2枚目・・・文中で表現されている「無垢な私」のころの写真です。20歳ごろの写真だと思います。
 文章は、一般の女の子も、こんなにして成熟していくのかなあ・・・という私のウブなころの体験談。

 まだ、ニューハーフバーのアルバイトをしていなかった頃の話です。それまで、電車内で痴漢されたことはありましたが、ナンパされるという経験はなくて、ナンパという意味さえわからなかったときでした。昔は私も「なにも知らない女の子」だったのですよ。私は九州の出身で、そこでは、街中でナンパされるという話は、男性の立場のときには聞いたことがなかったのです。当たり前ですよね。女性の場合、ほとんどはナンパされる側で、男性はナンパする側ですから。
 大学に通うために札幌に住むようになってから、最寄り駅は幌平橋という地下鉄の駅でした。あるとき、女の子の姿で駅から降りて帰宅している途中、男性に声をかけられたのです。
「かわいいね。ちょっと、話できないかなあ」と言われたのです。えっ、えっ、えっ、それってどういうこと? YESともNOとも言う言葉を失って、横道の大きなポプラの木があるあたりにつれていかれました。
「キミって目がすてきだね。きれいだよ」なん言われて、私も舞い上がった気持ちになったのです。だって、男性から、かわいいとかきれいとか言われたのは初めてだったのですから。
「おごるからさあ、そのあたりの喫茶店で、コーヒー飲んでいこうよ」  舞い上がっていた私は、ついていったのです。
 喫茶店では、男性がいろいろと話しかけてくるのですが、私は、ひと言ふた言、返事するぐらいで、おしゃべりなんかできません。緊張していましたから。・・・そうそう、私の声はというと、それまでに、女性的な高めのトーンの声を出す練習をしていましたから、多くをしゃべらなければ、私がオトコであることはわからなかったかと思います。というか、当時、今みたいに「男の娘」を普通に見かける時代ではありませんから、メイクしてスカートをはいていれば、それは「女性」と誤認されるような時代でした。
男性「おとなしい子なんだね」
私「ちょっと緊張しているんです」
それでも、少しずつは会話がなり立つようになっていきました。そうしてしばらくすると、男性は、
「このペンダント、きれいだね」と、私の胸のところにあったペンダントを手で触り出します。そして、自然にそうなったということを装って、手の甲で、私の胸をちょんと触ってきたのです。「自然を装った」と判断するのはずっとあとになってからの推測で、当時はなにもわからなかったです。
 次に、今度は、男性の右手が私の膝の上に置かれました。それが男性の「性」なんだとわかるようになったのは、まだあとのことです。
「キミのストッキングの脚って、すてきだね」
 今から思うと、たぶんこの男性はストッキングフェチだったのかもしれません。でもこのとき「ストッキングフェチ」なんて存在も、それ以前に、言葉すら知らなかったときですから、私は純粋に、私の脚をほめられているものと思って、ますます舞い上がっていたと思います。
 膝の上部あたりにおかれた男性の手は、少しずつ上に這い上がっていきました。私は固まっていました。手は太ももへ、そしてパンティ部へと這い上がろうとしたとき、ハッと我に返り、ダメダメダメ、そこ触られてはオトコだということがバレちゃう。当時は、オトコだとバレてしまうことが女装して外出しているときの最大の恐怖だと思っていたのです。
 ダメーッと言って、男性の手を、私の太ももからふりほどきました。
「あーっ、ごめんごめん。キミがあまりにも魅力的だったんで、つい・・・ ごめんね。 じゃあ、もう出ようか」
 その喫茶店を出て市電の通りの方へ歩いて行く途中、私の肩をぐっと引き寄せて、男性の顔が、私のくちびるに近づいてきました。
 あっ、この人、キスしようとしてくる。キスしてくるというぐらいはウブだった私でも、それはわかります。だって、それまでに、富島健夫の青春小説に胸をときめかせながら読んでいましたから、男性からくちびるを奪われるというシーンぐらいはわかります。
 あ、ヤダヤダ。ファーストキスはやっぱり好きな人とでなくては。・・・富島健夫の小説では、好きあった2人が気持ちが高まってキスをするというのが定番でしたから。
「キスは、ごめんなさい」と、男性の元から逃げ出しました。男性はとくに追ってくることはありませんでした。
 これからしばらくして、私はニューハーフバーにアルバイトすることになるのですが、それは、だんだんと、「男性への接し方」を学んでいくプロセスでもあったのです。男性が、太ももを触ってこようとしたとき、「やーねえ、だーめよ」とやんわりと拒否したり、「いやーーん」なんて甘えたり、男性が、自分のアソコに私の手を導いて「男性自身」を誇示しようとしたとき、「うわっ、すごーーい」なんて言葉を返したり。そこまでに成長するのには、男性から誘われ口説かれ触られるという体験を積んでいったことがあったからだと思います。
 無垢の「女の子」が男性の性というものを知っていくのは、そのプロセスは、男性によって開発されていくのかもしれないなと思ったものでした。

イイネ!(4) PC
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